りぼんの読書ノート

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アメリカにおける秋山真之(島田謹二)

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名著ロシヤにおける広瀬武夫の著者は、日本海海戦の参謀であった秋山真之の研究を先に始めたとのことです。しかしながら、広瀬武夫の研究の際に巡り合った宝の山のような資料を得ることができなかったため、本書のほうが後になったとのこと。奇しくも本書は、司馬遼太郎氏の坂の上の雲が連載を始めた1969年に刊行されています。

日露戦争前夜にあたる1897年に海軍留学生としてアメリカに渡った秋山真之の書簡は、わずか3通しか発見されなかったとのこと。他には海軍部内の公的報告書があるのみなので、普通であれば伝記的著作の執筆は不可能なのでしょう。しかし著者が序文に記しているように、秋山真之という人物を徹底的に研究し、秋山真之がいたはずの場所と日時を丹念に追うことによって、彼の行動のみならず内面までも再現してしまったのが本書です。これはもう、伝記とか創作とかいう範疇を越えてしまった作品ですね。

本書のベースとなっているのは、軍事思想家のマハン海軍大学校長への師事、折しも遭遇した米西戦争におけるカリブ海海戦の観戦、駐米公使として赴任した小村寿太郎との出会いなどです。とりわけ米西戦争では、スペイン本国から派遣される艦隊の捕捉作戦、太平洋側にいた戦艦の回航、サンチャゴ湾封鎖作戦、陸軍と連携した揚陸作戦の支援と要塞攻撃などの近代戦が行われ、後の日露戦争の参考となったであろうことは、想像に難くありません。本書のかなりの部分が、近代海戦の研究書のようになってしまったのは、仕方のない所でしょう。

しかし本書の現代的な意味は、アメリカがモンロー主義を脱して帝国主義国家として変貌していった過程にあるのかもしれません。フェイクニュースによって世論が煽られ、その世論の後押しによって政策が大きく転換されるに至ったことは、日清日露戦争時の日本でも、第一次・第二次世界大戦前の欧州でも起こったことですが、今の世界でも形を変えて再現されそうな気がするのです。

2018/9