りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

オイレンシュピーゲル壱(冲方丁)

イメージ 1

あらゆるテロや犯罪が多発している近未来の国際都市ウィーン=ミリオポリス。超少子高齢化を背景にした児童労働の許可と、重度身体障害者に機械化四肢を与える福祉政策の融合によって、サイボーグ化された児童が公共事業に従事するようになっています。なかでも軍や治安維持などの過酷な任務に就いているのが、特殊転送式強襲機甲義肢(通称:特甲)を支給された「特甲児童」たち。

本シリーズの主人公は、ミリオポリス憲兵大隊(MPB)に所属する遊撃小隊「ケルベロス」。「黒犬=涼月」、「紅犬=陽炎」、「白犬=夕霧」という、それぞれ14歳の機械化少女3名の構成。犯罪者を制圧する戦闘任務の他、通常任務として「可憐な衣装で警察機構の重武装化の正当性と親しみ易さをアピール」という広報活動もしているのです。日本名を持っているのは、国連から「日本文化の委託」を受けているから。自国では保全困難となった文化を他国で維持願う制度なのですが、日本はとんでもないことになっている様子。

第1巻はやはりキャラ紹介ですね。「黒犬=涼月」は、ケルベロスの小隊長にして突撃手(スターマン)。乱暴だが一本気で生真面目。黒髪短髪、黒瞳白肌。超振動型雷撃機を内蔵した漆黒の特甲で果敢に突撃するボクサー。通称「対甲鉄拳(パンツァーファウスト)の涼月」。トルコ男と駆け落ちした母親が生み捨てた、末梢神経に障害を持つ少女だった涼月は、拳も足の指も開けず、手足から腐敗して瀕死に陥ったところを救われています。

「紅犬=陽炎」は狙撃手(スナイパー)。年相応以上に発達したモデル体型に裏打ちされた天性の小悪魔。赤髪灰眼。超伝導式ライフルを備えた真紅の特甲による精密射撃を得意とする、通称「魔弾の射手(フライシュッツ)の陽炎」。オリンピック選手であった父親のライフル暴発で半身不随となり、さらに近親相姦関係となった父親が自殺したところを救われました。その結果、冷静でニヒルな「私」と、いたいけで乙女チックな「彼女」という二面性を同居させています。

「白犬=夕霧」はチームの遊撃手(ショート)。天真爛漫で笑顔を絶やさない心優しい少女。他の二人の精神的支柱。金髪碧眼のユダヤ系。液状化金属の極細ワイヤーを展開する白銀の特甲を駆使して敵を切り刻む、歌って踊れる殺人ミキサー。通称「悪ふざけ(オイレンシュピーゲル)の夕霧」。どん底に落ちたユダヤ人娼婦の母親の手によって、福祉局の向かいのビルから投げ落とされた過去を持っています。

謎の武器商人「プリンチップ」という、『009』の「ブラックゴースト」や「007」の「スペクター」のような巨悪の組織が登場。第一次世界大戦の引き金を弾いたサラエボの銃撃犯の名前を持つこの組織は、人々の人種差別意識をエネルギーとしているようです。オーストリアという国には「ヒトラーの被害者」との立場を主張したあまり、加害者としての総括がしきれていないという歴史もあるとのこと。そのあたりはアジアでの某国と似ている点もあるかも・・。

冒頭とラストに、旧約聖書アブラハムとイサクのエピソードが紹介されています。この話のポイントは、親の手で生贄にされた子が、まだ親と神と世界を愛せるかどうか・・だそうです。

2014/9