「パワードスーツSF」というジャンルがあります。装甲宇宙服を身にまとった宇宙戦士が活躍するような物語はハインラインの『宇宙の戦士』が確立したものであり、その後もアイアンマンやガンダムに至るまで多くの作家・読者を魅了し続けてきました。すぐに実現可能なものではないようですが、現代科学と地続きにあると思われることも魅力のひとつなのでしょう。本書は多様な形で展開されている現代パワードスーツSFのアンソロジーです。
「この地獄の片隅に」ジャック・キャンベル
異星人と死闘を繰り広げている最前線の重装アーマ部隊に、無謀な命令を下した将軍の真意はどこにあったのでしょう。AI装備のアーマーを装着している将軍は正気なのでしょうか。
「深海採集船コッペリア号」ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン
喪類採集船のクルーとして異星の海洋に潜っているクルーは、厄介なものを発見してしまいました。そこには星間戦争を起こしかねない記録が保存されていたのです。
「ノマド」カリン・ロワチー
この街のエリートギャングは、メカと人間の融合体となっています。組織の裏切りによって相棒の人間を失ったメカは、単身で敵地に乗り込むのですが、彼は新しい相棒を見つけることができるのでしょうか。ノマドとは組織に属していない融合体のことです。
「アーマーの恋の物語」デヴィッド・バー・カートリー
決してアーマーを脱がない天才科学者は、自由を求めて未来からやってきた逃亡者でした。しかし彼は、追跡者の女性に恋をしてしまったのです。
「ケリー盗賊団の最期」デイヴィッド・D・レヴァイン
開拓時代の19世紀オーストラリア。隠棲中の老発明家のもとにあらわれたギャングは、蒸気駆動の武装甲冑の制作を依頼するのですが・・。。
「外傷ポッド」アレステア・レナルズ
敵地で深刻な外傷を追って医療ポッドに収容された兵士は、遠隔操作で治療を行う女性医師に身体を委ねます。しかし通信記録は存在しませんでした。兵士の頭脳と女性医師AIはやがて・・。
「密猟者」ウェンディ・N・ワグナー
月で生まれた女性レンジャーは、人類遺産保護区に指定された地球での活動を希望します。しかし豊かな自然を回復した地球は、異星人による密漁場と化していたのです。
「ドン・キホーテ」キャリー・ヴォーン
スペイン戦争末期、配色濃厚な共和国軍はとてつもない新兵器を作り上げました。その威力を見たアメリカ人記者がとった行動とは・・。科学の軍事利用は避けられないのでしょうか。本書の結論は「ケリー盗賊団の最期」と正反対です。
「天国と地獄の星」サイモン・R・グリーン
その惑星の植物は、テラフォームを試みる人間に対して敵意をむき出しにして寄せ付けません。そこは人類にとっての地獄なのでしょうか。それとも・・。亡き妻の精神がコピーされたアーマーを纏うことは辛そうですが、それと別れることはもっと辛そうです。
「所有権の移転」クリスティ・ヤント
専用の着用者である人間を殺害された外骨格は、殺人犯に着用されてしまいます。しかし外骨格にはそのようなケースを想定した設計がされていたのです。
「N体問題」ショーン・ウィリアムズ
偉大な古代文明が遺した宇宙空間ワープゲートには、終着駅がありました。その星からは誰も出ることができないのです。そこに流れ着いた男は、メカスーツを着た女性執行官とともに脱出を試みるのですが・・。ワープとは遠距離へのコピーのことだったのですね。
「猫のパジャマ」ジャック・マクデヴィット
パルサーをめぐる研究ステーションを訪れた支援船の船長は、異変に気付きます。隕石に衝突されたステーション内の研究者は全員が即死しており、トイレエリアにいたネコだけが生き延びていたのです。支援船の操縦を訓練生に委ねた船長は、ネコを救出しようと試みます。そういえば「ネコSF」という非公式ジャンルもありましたね
2022/8