りぼんの読書ノート

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惑星童話(須賀しのぶ)

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また、桜の国でで、2016年度下期の直木賞候補となった著者のデビュー作です。SF仕立ての純愛ものですが、まだ学生だった著者はSFについては全く詳しくなかったとのこと。ただ、本書でコバルト・ノベル大賞の読者大賞を受賞したことが、就職氷河期に苦しんでいた著者に、作家への道を歩ませることになりました。

本書は、宇宙船のクルーとして活躍する天才宇宙飛行士アーノルドが、ひとりだけ時間の流れから取り残されてしまう悲しみを味わう物語。数カ月の宇宙旅行から戻って来ると、地球では10年単位で時間が過ぎ去っているという「浦島効果」ですね。もっとも、宇宙船の速度とか、人類が居住可能な惑星の存在とかの科学的な検証は全くありませんので、突っ込まないように。

老いていく姉を見るのが辛くて肉親との絆を絶っていたアーノルドが出会った少女は、次に会った時には女性宇宙飛行士になっていました。そのアーノルドに憧れる少女が、姉の娘だったのです。同じ宇宙飛行士として、同じ時間を歩めると思っていた2人でしたが、やはり別離の時は迫っていたという物語。どう描いても宇宙空間は広大過ぎて、人間の時間には釣り合わないようです。

第2部で描かれる、2人の息子の視点から見た同じ物語も、なかなか効果的でした。もちろん若書きですが、今でも読むに耐える作品になっています。文章表現は、当時から光っていましたね。

2017/2