近年になってアメリカで作品がTVドラマ化され、人気を博している著者ですが、1941年生まれで古参のSF作家です。本書は、ドラマ化された表題作を含め、いずれも1970年代に綴られた短編集。ホラー風味すら感じ取れるSF作品ですが、根底にはヒューマニズムが流れています。
「ナイトフライヤー」
遥か古代から、深宇宙を一直線に突き進み続ける巨大船団を運行する異種生命体ヴォルクリン。彼らと接触すべく宇宙船「ナイトフライヤー号」で旅立った9人の研究者たちは、船内で起こる謎めいた出来事によって狂気に囚われていきます。彼らは姿を見せない船長を疑うのですが・・。船外の驚異と船内の狂気が対照的です。
「オーバーライド」
屍を操って惑星で採掘業を営む男たちに、意外な敵が現れます。シリーズになりそこなったという「屍使いモノ」ですが、舞台のイメージはゴールドラッシュのアメリカ西部ですね。では「屍」とは? 余計な深読みはやめておきましょう。
「ウィークエンドは戦場で」
もはや戦争が消滅した未来社会で、実際の戦闘行為を体験させる娯楽が誕生。撃たれれば実際に死ぬというリアルな疑似戦場で、ダメ男のコンプレックスが爆発してしまいます。
「七たび戒めん、人を殺めるなかれと」
人類のみに授けられたという神を信奉し、異星の原住民を殺害しまくる軍事教団に対し、異性民と親しんだ交易業者は自衛のための武器を調達しようとするのですが・・。まるで映画「アバター」の原型のようです。
「スター・リングの彩炎をもってしても」
人類が発見した「スターリング」とは、単なる深宇宙へのジャンプ台なのでしょうか。それともブラックホールやホワイトホールや異次元空間とも関りを持っているのでしょうか。やがて観察隊の目の前で異変が起こります。映画「スターゲイト」の原型のように思えます。
「この歌を、ライアに」
高度な文明を築き上げているのに、生涯の最後には寄生体に身を任せて緩慢な自殺を行う異星民は、どのような世界観のもとに生きているのでしょう。彼らの心の深奥を覗いたテレパスの女性は、そこに何を見たのでしょう。これも「アバター」系ですね。
2019/11