りぼんの読書ノート

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宇宙の戦士(ロバート・A.ハインライン)

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「パワードスーツ(強化服)」というアイデアは、日本では「ガンダム」で一般的なものとなり、映画「マトリックス」や「アバター」にも使われて、今やグローバル・スタンダードとなった感がありますが、それがはじめて登場したのが50年前に書かれた本書です。

宇宙に進出した人類が、宇宙の覇権を争ってクモ型エイリアン種族と戦争に突入した未来社会。勝敗の帰趨を決めることになるのが、宇宙船から降下して地上戦闘を行なう機動歩兵隊なのですが、彼らが装着しているのが、破壊力・防御力抜群のパワード・スーツ

本書は、甘ったれ小僧のリコが地球連邦軍に入隊して機動歩兵連隊に配属され、訓練と戦闘を重ねるうちに「真の男」へと成長していく物語。ガジェットはともかくとしてストーリーはむしろ陳腐といえるくらいのものなのですが、本書が話題となったのは、著者が未来社会に求めたタカ派的な姿であり、思想なのでしょう。人類が存亡を賭けて宇宙戦争を闘っている時代ですから、人類間の争いは既に終結しています。しかし、この時代に人類を指導しているのは「軍」なのです。軍経験者しか「市民権=投票権」を持てない社会が、理想に近いものとして描かれるのです。本書は、軍国主義を礼賛しているのでしょうか。

しかしそこには、階級的・社会的なエリート主義はありません。全ての軍人は「たたきあげ」からスタートしなくてはならず、その中で「選抜」された者だけが将官となり、退役後に政治家となれるのです。著者はこの仕組みを、「私利私欲のために共同体を利用しない人間だけに、共同体の意思決定を任せる」ための手段として描いています。ある意味で「能力主義の極地」と言えるのかもしれません。いかにも「タカ派アメリカ的」な匂いがプンプンしているのですが、実はここでは「アメリカ」も否定されています。「20世紀末に起きた問題」として、少年犯罪の増加や社会的モラルの低下があったことが何度も言及されていますが、本書は当時のアメリカが陥っていた社会状況に危機感を抱いた著者がたどり着いた、ひとつの回答なのでしょう。

本書の評価をめぐって当時の日本で大論争が起きたと後書きにありますが、「軍」という言葉を別の組織に置き換えてみると、ここで述べられているのは古典的で常識的な道徳論にすぎないようにも思えます。「戦争の是非」は、ここでは別次元の話なのですから。ただし、です。少年犯罪の増加や社会的モラルの低下という問題は、現在のほうが遥かにひどくなっているため、読者の側の「秩序アレルギー」が低くなっている可能性もあるのです。こういう雰囲気が「ファシズム到来の危機」だとしたら・・と思うと別の意味の怖さを感じます。

2010/5