りぼんの読書ノート

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興亡の世界史19.空の帝国アメリカの20世紀(青柳正規編/生井英考著)

2022年6月から読んできた「興亡の世界史シリーズ(全21巻)」も、いよいよ大詰めです。この後は、現代人が直面する問題を多角的に論じる『人類はどこへ行くのか』という巻があるだけなので、世界史としては、本書が事実上の最終巻なのでしょう。

 

本書は、2つの世界大戦を経て20世紀における唯一の超大国として君臨し続けたアメリカ合衆国について、「空の帝国」という視点から論じた試みです。ライト兄弟が人類初の有人動力飛行に成功した1903年から、同時多発テロによってWTCビルが崩れ落ちた2001年まで、アメリカの外交戦略は何度も揺れ動きましたが、ほとんど全世界の制空権を掌握していたことが力の源であったと、著者は述べています。

 

「制空権」なる用語は、イタリア陸軍の戦略理論者であったドゥーエが第一次世界大戦後の1921年に初めて用いたものだそうです。この概念が、アメリカ海軍の戦略理論者であったマハンが19世紀末に確立した「制海権」概念とともにアメリカの国防戦略の柱となったのは、太平洋戦争のミッドウェー海戦以降のことだとのこと。そして「制空権」の意味するところが戦略爆撃となっていくには時間を要しませんでした。

 

本書は、飛行機の揺籃時代から、第一次世界大戦における限定的活用を経て、第2次世界大戦での戦略爆撃と核爆弾使用、冷戦時代の朝鮮戦争ヴェトナム戦争、新世界秩序の担い手を自認した時代の湾岸戦争コソヴォ空爆を経て、アフガニスタンイラクへの侵攻に至るまでを、極力体系立てて綴っています。著者も自認しているように、核戦略と規制の問題や、宇宙開発やコンピュータ技術との関連や、軍事と同等以上の影響力を有する国際的な航空行政については、ほどんど割愛されています。それでも「アメリカの戦争の歴史だった」と言われる20世紀の覇権の源泉についての重要な考察と言えるでしょう。

 

テロとの闘いで幕を開けた21世紀には、中国の覇権問題、北朝鮮のミサイル・核戦略、ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、アメリカ合衆国内も分断の危機にさらされています。温暖化問題などの全地球的課題もある中で、21世紀を再び「戦争の世紀」としないために何ができるのか、ひとりひとりが真剣に考えるべき時が来ています。

 

2023/7