りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(ピーター・トライアス)

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21世紀版の『高い城の男』ともいうべき、歴史改変SFです。第二次世界大戦中のカリフォルニア日本人強制収容所で静かに始まった物語は、意外な展開を迎えます。日章旗をつけたジープが乗り込んできて、戦争に勝利した日本軍が日系人を解放するというのです。

そして40年後。日本の統治下にあるアメリカ西海岸は「日本合衆国(USJ)」と呼ばれ、東海岸を占領したドイツとの冷戦の最前線に位置しています。ここは、フランシス・ディックが「わびさび的な精神文化」として描いた日本ではなく、ゲーム世界のよう。20世紀後半の時点で「電卓」と呼ばれるスマホや電気自動車が実用化されており、ガンダムのような巨大ロボット兵器も登場。

その一方で、天皇陛下を頂点とする封建的な体制と、非人間的なほどに体面と勤勉を重視する文化が温存されており、かつてのアメリカ的な自由主義は完全に否定されているのです。それを体現して本書のヒロイン役を務めているのが、大義のためには非情に徹することができる特高警察課員の槻野昭子。彼女が捜査しているのは、アンダーグラウンドで流通している禁断の軍事ゲーム「USA」であり、そこではアメリカが勝利を収めたことになっているというのです。

槻野昭子は、解放された日系移民の息子で検閲局に勤める帝国陸軍のベン石村とともに、アメリカ人抵抗組織に協力しているらしい高名な軍事ゲーム開発者の六浦賀将軍を追って、アメリカ人抵抗組織「ジョージ・ワシントン団」が実効支配している「サンデェゴ・ティファナ地区」への潜入を目論むのですが・・。

映画「ブレードランナー」や、サイバーパンクニューロマンサーを彷彿とさせる荒廃したテクノロジー世界が、戯画化された日本文化の抑圧によって一段とグロテスクなものになっています。こういう作品が翻訳されるほどに「話題沸騰」と聞くと、辛い気持ちになりますね。最後に明かされる、ベン石村が抱えた家族の秘密だけが、ささやかな救いでした。

2017/11