りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

氷の轍(桜木紫乃)

イメージ 1

「シンジツ二人ハ遣瀬ナシ、シンジツ一人ハ堪ヘガタシ」という北原白秋の詩「他ト我」の意味が最後に明かされる、TVドラマのために書き下ろされた作品です。もっとも原作とドラマでは、物語の展開が少々違っているようです。

釧路市の海岸で発見された男性の他殺死体は、札幌市の元タクシー乗務員の老人と判明。刑事課の大門真由は、札幌の被害者自宅で北原白秋の詩集と、旅番組のビデオを発見します。青森出身で、八戸の歓楽街で働いた後に札幌に移住したという男の生涯をたどった真由は、彼が八戸時代に心を寄せていたという踊り子のキャサリンを、施設に訪ねるのですが・・。

生涯独身を通した寂しい老人は、死を前にして「ひとり」が苦しくなったのでしょう。しかし、そんな老人のひとりよがりな行為を、迷惑に思った者がいたのです。それは、老人が夢想したような「温かい家族」など、厳しい現実のなかで遠い昔に捨て去り、最後に守るべきものだけを懸命に守っていた人物だったのです。

生き別れになった姉妹という設定は、すでに硝子の葦ラブレスに登場しており、その意味では本書には「焼き直し感」がありますね。それでも、薄幸ながら逞しく生きる女性の姿は、悲しくも魅力的なのです。孤独に耐えられないのは、男性のほうなのでしょう。

本書に登場する刑事・大門真由もまた、出生の秘密を抱えた女性でした。ひとまわり成長した彼女が活躍する作品も読んでみたいものです。

2017/11