りぼんの読書ノート

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ピュリティ(ジョナサン・フランゼン)

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高額の奨学金ローンに苦しめられながら意に染まない仕事についている23歳の女性、ピップ・タイラーが本書の主人公。といっても彼女が中心になっているのは821ページの作品の中で30%程度。残りの70%は、彼女の出生と関わりがあった人物たちの物語。 

 

著者が彼女の本名を「ピュリティ」としたのは、「純粋という言葉の流布に疑問を提示したかったから」とのこと。確かにISISだって、ティーパーティだって、ナチスだって純粋なのです。そして彼女の愛称を「ピップ」としたのは、明らかにディケンズの『大いなる遺産』を意識してのことなのでしょう。彼女は、彼女に先行する人物たちから様々な遺産を受け継ぐのです。 

 

一人娘にさえも本名を明かさず、父親が誰なのかも教えてくれない母親に育てられたピップの世界が変わっていきます。ウィキリークスのような情報公開組織の主催者アンドレアスから勧誘を受けてボリビアに赴き、さらに組織から派遣されてディンバーの調査報道機関を主宰するトムの元へと派遣されるのです。 

 

その間に挿入、というより分量的にはこちらがメインテーマのように叙述されていくのは、アンドレアスが東ドイツ時代に犯した犯罪と、トムと元妻アナベルとの破滅的な夫婦生活。しかのこの2人には過去に接点もあったのです。どうやらピップが雇われて派遣されたのには、裏の事情があるようです。 

 

やがて誰もが秘密にしたがっていた衝撃の事実を知ってしまったピップは、その重さを受け止めて乗り越えていけるのでしょうか。秘密と嘘、理想と現実、正義と不正、愛情と憎悪、罪と罰などのさまざまな要素が絡み合う、現代アメリカを代表する著者が紡ぎ出す家族小説は圧巻です。これが今年のナンバーワンかな? 

 

2019/11