りぼんの読書ノート

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ビンティ(ンネディ・オコラフォー)

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「アフリカン・ヒューチャリズム」の若き旗手である著者は、ナイジェリア出身の両親を持つオハイオ生まれのアフリカ系アメリカ人です。奴隷として欧米に連れてこられた過去を引きずることなく、よりアフリカ本来の視点や文化に根差した未来を描くということを宣言しているのです。

 

本書の主人公は、独自の文化を有していながら弱小民族にすぎないヒンバ族に生まれた、天才少女ビンティ。人生のすべてを記録するアストロラーベが不可欠のものとなっている時代で、高品質な製品を作ることができる調和師としての能力を父親から、自然界の事象を方程式によってコントロールする数学的才能を母親から受け継いだビンティは、銀河系随一の名門ウウムザ大学の入学資格を得て、宇宙空間に乗り出します。しかしその途中で、信じられないような残虐事件が勃発。支配民族であるクーシュ族が乗客の大半を占めている宇宙船が、彼らと敵対関係にある異星種族メデュースに襲われ、ビンティとパイロット以外の全乗員が惨殺されてしまったのです。

 

その対立関係は大学にも、やがて里帰りした故郷にも持ち越されていくのですが、はからずも両者の間に立つことになったビンティは講和を提案。部族の過去や宇宙の神秘に触れることができたとはいえ、一介の少女がそのような大役を務めることができるのでしょうか。予想外の展開が続く物語は、残虐的な要素を含んでいる者の、どこか懐かしいスリリングな宇宙冒険ストーリーに仕上がっています。それだけでなく、本書の重要な要素である種族やルーツや遺伝子の問題は、現実社会を反映しているものであり、そこにも真摯に向き合っているのです。ちなみにヒンバ族とはナミビア少数民族として実在しているそうです。

 

2022/4