りぼんの読書ノート

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結 妹背山婦女庭訓波模様(大島真寿美)

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2019年の直木賞を受賞した『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』の続編というよりも、姉妹編ですね。前作の主役であった近松半二の死後も、人形浄瑠璃の魅力に魅せられて、人形浄瑠璃とともに生きた人々の群像劇。多くの人々が登場しますが、陰の主役は半二の娘のおきみです。半二の遺作となった書きかけの「伊賀越道中双六」を完成させた近松加作なる人物の正体は、おきみだったのでしょうか。

 

おきみは、幼い頃から蓄えた豊富な浄瑠璃の知識をもとにして、戯作者を夢見る男たちの指南役となっていきます。商家の旦那でありながら義太夫節に入れ込んでついには戯画作者となった松屋耳鳥斎の語り相手となり、後に歌舞伎芝居の立作者となった近松徳蔵に浄瑠璃の神髄を教え込んだのは、まだ少女だったころ。半二の後継者となった菅専助からも高く評価され、さらに後の世代の近松柳に至っては、おきみの指導を受けて大ヒット作の「絵本太功記」を完成させたとされます。そのあおりを食って江戸に出奔した余七が後の十返舎一九となる・・というのは余談ですが。

 

著者は「半二とともに道頓堀で虚構を浴びるうちに人生を俯瞰する目が培われ、の世を戯場のようなものだと捉えている」松屋耳鳥斎に興味を持って、本書の構想を練ったとのことです。しかし完全におきみに食われてしまいましたね。書き進めるに連れて「浄瑠璃を誰よりも愛して才能に溢れているが決して表に出ようとせず、掴みどころのない不思議な魅力をまとっている」おきみのことを、どんどん好きになっていったようです。北斎の娘・お栄(応為)、国芳の娘・登鯉、馬琴の息子の嫁・お路など、才能を持ちながら表に出ることが叶わず、虚実のあわいに沈んでしまった娘や嫁たちの物語は、どれも感動的です。

 

2022/4