りぼんの読書ノート

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仮名手本忠臣蔵(松井今朝子訳)日本文学全集10

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赤穂浪士の仇討ちを「太平記」の時代に移し替えた、浄瑠璃の名作です。「仮名手本」とは、赤穂47士をいろは47文字になぞらえた所から来ているとのこと。吉良上野介高師直、浅野匠守が塩冶判官、大石内蔵助が大星由良助とされている点には気を付けないといけませんが、有名な物語ですから、あらすじをたどる必要はないでしょう。赤穂浪士の物語は、すべて「仮名手本忠臣蔵」がベースになっています。

余談として、刃傷事件の際に逢引をしていたことに責任を感じ、中途で無念の死をとげる「早の勘平」のエピソードと、やはり刃傷事件の際に塩谷判官を抱き止めたことを後悔して、師直館の絵図面を由良助に渡すためにわざと討たれる「加古川本蔵」のエピソードに、かなりのウェイトが割かれているのは、当時のm観客の好みを取り入れたためでしょう。義士の娘・岩を殺害した伊右衛門が復讐される忠臣蔵外伝としての「四谷怪談」は、後世の鶴屋南北の作品。

新訳に携わった松井今朝子さんは、まさに適役。松竹時代に歌舞伎の企画・制作に携わり、作家としても歌舞伎の世界を描いた作品が多いのですから、実際、彼女の小説の中に「仮名手本忠臣蔵」は何度も登場しています。7人の作家が新役を競作した本巻の中で、一番読みやすい作品でした。さすがにこなれています。

2017/2