りぼんの読書ノート

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国宝 青春篇(吉田修一)

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後に歌舞伎の名女形として人間国宝となる人物の一代記は、1964年の長崎で始まります。任侠の一門に生まれて美貌と才能に恵まれた少年・立花喜久雄の運命は、新年会の余興として舞を舞った直後に抗争で父を殺害されて一変。長崎に留まれなくなった喜久雄は、わずかな縁を頼って大阪歌舞伎界の花井半二郎に入門しますが、そこでは嫡子・俊介との競争が待ち受けていました。 

 

東京オリンピック大阪万博に象徴される日本の成長期と歩を合わせて、喜久雄と俊介は競いながら技を磨き合い、やがては友情を深めていきます。しかし半二郎が後継者として選んだのは、意外にも喜久雄だったのです。失意の俊介は失踪してしまうのですが、もちろんこのままでは終わりません。一方で歌舞伎人気が衰えた大阪を出て東京に進出した喜久雄も、血縁も後ろ盾もない世界でもがき苦しむのですが・・。 

 

絢爛豪華な歌舞伎の世界と狭い梨園のどろどろした世界は、対照的ながらも共鳴しあっているようです。いつしか主人公の運命も歌舞伎の演目と二重写しになっていき、重層的な虚実皮膜の世界が広がっていくさまは、まさに著者の面目躍如。失踪した俊介が、ドサ回りの劇団で化け猫を怪演して復活を果たす場面などは、鳥肌ものです。下巻も大いに期待できますね。 

 

2020/2