りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

葵の月(梶よう子)

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徳川家治のもとで田沼意次が全盛を誇った時代から、徳川家斉松平定信による「寛政の改革」への移行の背景に、田沼派と一橋派の暗闘があったことは間違いのない事実でしょう。その暗闘に巻き込まれながらも、
信念を貫いた男女の物語です。

徳川家治の継嗣で次代将軍として期待されていた家基が、鷹狩の後に突如体調を崩して夭折。暗殺説もささやかれる中で、家基の側近であった書院番の坂木蒼馬が失踪。彼の許婚であった志津乃には、蒼馬の県有旧友であった高階信吾郎との縁談が進み始めます。蒼馬を忘れられない志津乃は、彼の行方を捜し始めるのですが・・。

一方で、志津乃の叔父にあたる医師の孝安の近辺で、不審な事態が起こり始めます。今は御殿医に出世している考安と同学の医師と接触した者が、殺害されたり行方不明になったりしているようなのです。その背景にいるのは誰なのか。どのような陰謀が渦巻いているのか。密かに匿われている童女姿の男児とは何者なのか。疾風怒濤の展開は、なかなかスリリング。

志津乃を巡る2人の男性、蒼馬と信吾郎は、それぞれに上層部と繋がって秘密の動きをしているようです。誰に仕えるかが武士の運命を決めるとはいえ、武士として、人間としての矜持と信念を失ってはいけません。結局のところ善悪感の決め手になるのは人間性でしかないのですが、もっとも信念を貫いた信吾郎が、悪役とならざるをえなかったのは皮肉なもの。ヨイ豊直木賞候補になった著者の力量を楽しめる作品です。

2017/10