1.国宝 青春篇・花道篇(吉田修一)
歌舞伎の名女形として人間国宝となった人物の一代記は、作家生活20周年の節目を迎えた著者渾身の大作でした。長崎の任侠一門に生まれた主人公の喜久雄は、抗争で父を殺害された後に大阪歌舞伎の女形に入門。御曹司界の俊介と競いながら技を磨き合い、失意と成功を繰り返しながら孤高の地位を築き上げた先には何が舞っているのか。対照的ながらも共鳴しあっている、絢爛豪華な歌舞伎の世界と狭い梨園のどろどろした世界が見事に描かれます。
2.マンハッタン・ビーチ(ジェニファー・イーガン)
11歳の時に失踪した父親の面影を抱きつつ、戦時中のアメリカで女性初の潜水士を目指すアナ。しかし単純に女性の自立を描いた作品ではありません。アメリカの覇権が築かれたのは、大恐慌から戦争に至る暗い時代であったことに焦点を当て、家族愛や恋愛はもちろん、マフィアや港湾地区の腐敗を描いたノワールでも、父親の消息を探るミステリでもある、重層的な作品です。
3.ダブル SIDE A/SIDE B(パク・ミンギュ)
『三美スーパースターズ』で弱小球団を愛した男の再生を描き、『ピンポン』で世界を救った負け犬少年の真情を描き、『亡き王女のためのパヴァーヌ』でルックス重視の韓国でとてつもなく醜い女性への純愛を描いた著者の短編集です。喜劇に潜む悲哀、狂気に覆われた真情、SFに託した社会批判など、著者の多面性を楽しめる作品集です。
【次点】
・夢も見ずに眠った。(絲山秋子)
【その他今月読んだ本】
・あきない世傳 金と銀6 本流篇(高田郁)
・レンブラントの帽子(バーナード・マラマッド)
・ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅(レイチェル・ジョイス)
・京都伏見のあやかし甘味帖 4(柏てん)
・ロビン・フッドの愉快な冒険(ハワード・パイル)
・はい、チーズ(カート・ヴォネガット)
・おもいおもわれふりふられ(堀川アサコ)
・ケミストリー(ウェイク・ワン)
・壁(安部公房)
・物語アラビアの歴史(蔀勇造)
・カルメン/タマンゴ(メリメ)
2020/2/29