りぼんの読書ノート

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エチュード春一番 第3曲 幻想組曲「狼」(荻原規子)

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普通の女子大生・美綾のもとに子犬モノクロの姿で神が顕現した物語は、過去へと向かいます。きっかけは美綾が「将門記」を読んだこと。当時はオオカミ姿で顕現していたという神は、平将門という名前の人物を記憶していたのです。時間を遡れる神は本来、記憶というものを持ち歩かないそうですが、なぜその名前が強く印象に残っていたのでしょう。

 

将門が怨霊として祀られている理由に興味を抱いた美綾は、飼い主の役目を果たしてくれているお礼として、彼女の意識を10世紀へと飛ばします。まだ反乱を起こす前の将門に遭遇した美綾は、彼の護衛を努めている蝦夷の娘ユカラの意識と同調。下野国で覚醒した邪悪な呪いや、それを封じ込めようと奔走する狼たちの存在を知るのですが・・。

 

前2巻では、このシリーズがどこへ向かうのか想像つきませんでした。『レッドデータガール』でも感じたことなのですが、現在や未来というのは、この著者が描く神的なものとの相性が良くないようなのです。かといって単純に過去へと向かうのでは「勾玉シリーズ」の焼き直しになってしまいそうで、微妙なところです。第2巻から第3巻まで5年もかかってしまった理由も、そのあたりにあるのかもしれません。「過去に出かける前とは同じになれない」と思う主人公の物語はどこへ向かうのでしょう。

 

2022/4