りぼんの読書ノート

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女殺し油地獄(桜庭一樹訳)日本文学全集10

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近松門左衛門による人形浄瑠璃の代表作です。大阪天満の油屋の放蕩息子の与兵衛が借金に追われて、彼のことを弟のように気にかけてくれていた、同じ町内の油屋の若女房・お吉を斬殺して、店の掛け金を奪う物語。懲らしめのために与兵衛を勘当していた両親は、お吉経由で小遣いを渡したりしていたのですが、完全に裏目に出てしまったわけです。

この話を読んで、インドネシアで蜂起が起こった際に殺害されたのは、現地の人々に優しく接していた日本人であったという話を思い出しました。その背景には「優しい人は殺害しても許してくれる」という勝手な認識があったとのことですが、それが事実ならひどい話です。

新訳を著した桜庭さんは、後書きで「与兵衛はある種の発達障害らしきものを抱えていまいか?」と述べています。確かに、すぐばれる嘘をついて多額の借金をし、金の無心を断られると衝動的に殺人を犯し、隠蔽工作も適当なのに被害者の法事に平気で現れるというのは、普通の神経ではありませんね。野崎参りの際のトラブルでの逃げろという合図や、心を入れ替えて頑張れという親の無言の期待を察することができないというのも、広汎性発達障害のせいに思えてきます。

この新訳をきっかけにして、「残虐な殺人者」という従来の与兵衛認識が改められるのかもしれません。それにしても、被害者のお吉が救われないことに変わりはないのですが。

2017/2