りぼんの読書ノート

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菅原伝授手習鑑(三浦しをん訳)日本文学全集10

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菅原道真をモデルとする菅丞相が、高潔な人格であるために悲劇的な運命をたどるものの、死後に名誉回復されて天神様として崇められるという物語。5段続の長い演目です。

第1段は、皇室をないがしろにする時平(モデルは藤原時平)と筆法伝授から外されたことを逆恨みする希世が、菅丞相を陥れて大宰府への流罪を命じられるまでの物語。皇弟の斎世親王と菅丞相の養女・苅屋姫の純愛が、謀反の翔子とされてしまいます。

第2段は、都落ちする菅丞相が、追っ手をかわして配所へと向かう物語。菅丞相の伯母の娘で苅屋姫の実姉である立田が、菅丞相を殺害しようとする夫と義父を止めようとして殺されてしまいます。木像の菅丞相が身代わりになるエピソードも有名です。

第3段は、牛車の牛飼いである三兄弟の物語。菅丞相に仕える梅王と、時平に仕える松王の仲違い。菅丞相の冤罪の原因を作った斎世親王に仕える桜王丸の切腹のエピソード。梅王の真意は後に明らかになります、

第4段は、独立して演じられることが多い「寺子屋の段」。菅丞相の嫡男・菅秀才を手にかけようとする悪漢に対し、時平に仕える松王が、自分の息子を身代わりとして差し出すのです。松王はこのことを予想していたのです。

第5段は、死して天神と化した菅丞相が、時平らの横暴を収めて名誉回復され、息子の菅秀才も家の再興を許されるという、めでたしめでたしの物語。

新訳を担当したのは、「文楽青春小説」の仏果を得ず という著作もある三浦しをんさん。生身の女優に感情移入することはなくても、女の人形には同化してしまい、主君の子どもを助けるために自分の子どもを殺させる「身代わり譚」に号泣するという三浦さんは、まさに適役でした。過剰感も不足感もない、優れた翻訳だったと思います。

2017/2