りぼんの読書ノート

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義経千本桜(いしいしんじ訳)日本文学全集10

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2016年春に吉野山に花見に行きました。「義経千本桜」という演目は、女の入れない大峰へと踏み込んでいく義経一行と静御前の別れを描いた演目かと勝手に思い込んでいたのですが、とんでもない物語だったのですね。後白河法王から兄頼朝を討てとの謎をかけられた義経が、鎌倉方との敵対を避けて落ち行くところから後は、荒唐無稽な物語になっていきます。

源平合戦で死んだはずの、平家の勇将、平知盛平維盛、平教経が実は生きていたというのです。知盛は船宿の亭主に身を窶し、教経は吉野山の僧兵に成りすまし、維盛に至っては鮨屋の店員になっているのです。それどころか、壇ノ浦で入水したはずの安徳天皇も健礼門院も生きているのですから。さらには、鼓を打つと登場する源九郎狐なる妖狐まで登場。

かなりのドタバタ劇なのですが、江戸期の観衆の心を掴むエピソードは満載なのです。平家の再興をあきらめた知盛は義経安徳天皇を託して海に身を投げ、維盛は身代わりに助けられた末に出家し、教経は謀略家の藤原朝方を切った末に討たれていきます。安徳天皇に至っては、実は姫君だったという、まさかの展開。義経を慕う静御前と、鼓の皮にされた双親を偲ぶ子狐の哀愁は、妙にシンクロしています。

竹本座の3人の浄瑠璃作家の合作だそうです。義経をめぐる人物群による集団劇となった背景には、多くの登場人物に見せ場を与える必要もあったのでしょう。

2017/2