近松門左衛門の人形浄瑠璃の代表作です。伯父の娘との結婚を断ったため、継母が受け取って返さない結納金の返金を求められた徳兵衛は、友人と信じていた九平次に騙されて、絶望的な状況に陥ってしまいます。徳兵衛の苦境を知った恋人のお初は、とともに死ぬことを覚悟するのです。
「此の世のなごり。夜もなごり。死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜」の道行の段と、「未来成仏うたがひなき恋の手本となりにけり」との結びが有名ですね。2人は命がけで恋を全うした美しい人間として描かれ、「お初天神」として神格化されるに至っているのですが、冷静に考えればどうなのでしょう。お初は不幸な巻き添えでしかないとも思えるのです。
そうはいっても、「心中禁止令」を出されたり、上演を禁止されたりしながらも、現代まで生き残っている作品であるということは、日本人の琴線に触れる物語なのでしょう。男性にとっての「聖女」とは、最期まで運命をともにして付き従ってくれる女性ではないと思うのですが・・。
訳者は、冒頭の「観音巡り」の語りに登場する観音の人形と、お初を演じる人形は同じものではないかと推測しています。客は初めから「お初」を拝む気持ちにさせられたということですね。
2017/2