りぼんの読書ノート

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曾根崎心中(角田光代)

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大阪駅のすぐ近くにある露天神社は、近松門左衛門浄瑠璃「曾根崎心中」のモデルとなった遊女と手代の心中事件が起こった場所であり、遊女の名前から「お初天神」と呼ばれています。神社の周囲は大繁華街であり、かつてここが曾根崎洲と呼ばれる島だったことを偲ばせるものは、何もありません。

本書は「お初徳兵衛心中事件」の角田光代バージョン。遊女のお初にとって、男は恋したり愛したりする対象ではなかったはずなのに、徳兵衛との出会いは一瞬にして、この世を「生きる価値のある場所」に変えてしまったのです。しかし徳兵衛は、叔父の勧める姪との結婚を断り、義母から取り返した結納金を悪友の九平次に騙し取られて、この世に身の置き所のない運命に・・。心中を決意した2人の「道行き」が始まります。

浄瑠璃で「此の世のなごり。夜もなごり」と始まる道行きの場面を、角田さんは「星も最後、夜も最後。目に映るもの、ぜんぶ最後」と歌いあげていきます。道行きの途中でお初が「幾多の哀しい女たちが背を押してくれる」と感じたのは、「恋の手本となりにけり」の箇所でしょうか。でも、死に至る「激烈な恋の物語」にさほど心が動かなくなってしまったのは、年齢のせいかも。

2012/3