りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

魔法使いクラブ(青山七恵)

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10歳の少女が「魔法を使えるようになりたい」と願ったのは、子どもの力ではどうにもならない「現実」と対峙を迫られる予感を抱いたからだったのでしょう。危うい孤独感を抱えたまま思春期を生きた少女が自分にかけた魔法が解けるのは8年後、18歳になってからのことでした。

綺麗な姉や頭のいい兄と比較される4年生の結仁は、魔法使いになりたいと願い、幼馴染みの葵と史人と一緒に「魔法使いクラブ」を作って密かに特訓に励みます。合言葉は「3人の願いが叶うまで魔法使いクラブをやめてはいけない」。しかし七夕の短冊にその願いを書いたことから、クラスの笑い者になってしまい、一瞬のうちにひとりだけ違う世界にはじきとばされたように思います。

4年後、中学生になった結仁の家庭はぎくしゃくし始めます。魔法使いクラブの3人の関係も微妙になっていき、ついに解散となるのですが、だいじなのは魔法じゃなく3人で集まって秘密を分け合うことだったと気づきます。

さらに4年後、高校3年生になっていた結仁は高校を休学して年上の男性と一緒に暮らしています。相手は悪い男ではなさそうですが、孤独な不健全さは否めません。家庭はすでに崩壊し、5人の家族は滅多に顔を合わせることもありません。そんな結仁を頼って、大きな問題を抱えてしまった葵と史人が尋ねてきます。果たして「魔法」は効果を発揮するのでしょうか・・。

史人がとっておいた七夕の短冊を受け取った結仁が長距離バスに乗り込むラストは、決して暗くはありません。安易に群れることなくずっと孤独と対峙してきた少女は、すでに「自分の生き方」を見つけ出す寸前にいるように思えるのです。

主人公に全く魅力を感じられなかったひとり日和よりは、格段にいい作品です。

2012/3