りぼんの読書ノート

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スキタイと匈奴 遊牧の文明(林俊雄)

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17【スキタイと匈奴遊牧の文明(林俊雄)】
ローマ滅亡のきっかけを作ったフン族は、古代中国の北辺を脅かした匈奴の後裔なのでしょうか。また、フン族以前に中央アジアから中近東を支配したスキタイは、両者を繋ぐ環なのでしょうか。

文字を持たなかった騎馬民族にかわってスキタイと匈奴について記したのは、東西の「歴史の父」と称されるヘロドトス司馬遷です。両者の記述に共通点が多いことから「スキタイ=フン族匈奴」説が生まれたわけですが、最近の考古学はそれを実証しているのでしょうか。西洋史東洋史の狭間にあるブラックボックスに、中央ユーラシアの歴史と考古学の専門家が挑みます。

ユーラシアを代表する古代騎馬遊牧民である両者の共通点は、確かに多いのです。自らは農耕をおこなわず被支配民族に委ね、家畜とともに移動して定住集落や都市は作らず、全ての男子は騎馬戦士となり、機動性に富んだ戦術を展開するのです。そしてソ連崩壊後に調査が可能となった中央ユーラシアの遺跡群から発掘される、墳墓の様式や、動物紋様を持つ武具・馬具などの副葬品にも共通点は見てとれるようです。

とはいえ現時点で言い切れるのは、両者が同一の種族である「可能性は否定できない」くらいのもの。証明は難しそうですね。著者は本書のテーマを「騎馬遊牧民の誕生時期」と「遊牧国家の多様性・国際性」を明確にすることと言い切っています。「スキタイ=フン族匈奴説」を前面に持ち出したのは、出版社の販売戦略なのかもしれません。

それでも、ともすれば退屈な内容になりがちな学術的著述を「読ませる内容」に仕立て上げたのは、著者の丁寧な考証と説明です。本当に面白い部分はヘロドトス司馬遷によるところが大きいのですが、文献資料がこれ以上増えることは期待できませんね。新たに発掘される考古学資料の検証の重要性は増しているようです。

2017/12