りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

不死身の戦艦(ジョン・ジョゼフ・アダムズ/編)

SFファンなら誰でも「銀河連邦・銀河帝国」という言葉には反応してしまうでしょう。その起源はスミスの「レンズマン」やアジモフの「ファウンデーション」でしょうか。その後ル・グィンの「ハイニッシュ」やハーバートの「デューン」や「2001年」の「モノリス」を経て、「スターウォーズ」や「スタートレック」の大ヒットによって一般的な概念になりました。しかしそのためには、超光速での移動や通信、時間の問題が解決されなくてはなりません。本書はそれらの問題をSF的に解決した上で成立する「銀河連邦・銀河帝国SF」の傑作選です。

 

「スパイリーと漂流塊の女王」アレステア・レナルズ

対立する文明の宇宙戦争は誰が仕組んだものだったのでしょう。大量殺戮を求めない文明を築くのは蜂型のロボットなのでしょうか。

 

カルタゴ滅ぶべし」ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン

銀河中心部から発せられた呼びかけに応じて、あらゆる星域のあらゆる文明の代表が一堂に会します。メッセージが再び発せられるまでの休戦協定は、永遠に続くものなのかもしれません。

 

「戦いのあとで」ロイス・マクマスター・ビジョルド

宇宙空間に散乱する戦死者確認業務に志願した、中年女性の医療技術兵は誰を探しているのでしょう。『名誉のかけら(未読)』のスピンオフとのこと。

 

「監獄惑星」ケヴィン・J.アンダースン

偉大な人物のコピーである監視AIを無力化して反乱を起こした監獄星に、女性大統領はなぜ固執するのでしょう。そこに派遣された少年は何者なのでしょう。

 

「不死身の戦艦」G.R.R.マーティン

乗組員を殺害して独立したAI搭載戦艦は、何を目論んでいるのでしょう。

 

白鳥の歌」ユーン・ハ・リー

ブラックホールに突入して最期を迎える宇宙船の墓場を監視するステーションに配属された少女は、命ある者のために作曲を続けます。

 

「人工共生体」ロバート・シルヴァーバーグ

寄生生物を武器として用いる人類への報復として、人格を支配する共生体が送り込まれます。それに犯された戦友は死を望むのですが・・。。

 

「還る船」アン・マキャフリー

『歌う船』シリーズに属する短編ですね。宇宙船と一体化したヘルヴァは、宇宙海賊の襲撃を受ける平和な共同体に警告するのですが、彼らは独自の撃退法を持っていたのです。

 

「愛しきわが仔」メアリー・ローゼンブラム

神の言葉を聞く者として不合格となった人間の少女を救い出したのは、犬族を起源とする世話係でした。少女は犬族のためにも聞いて話すことができる存在だったのです。なんか可愛い犬SF。

 

「巨人の肩の上で」ロバート・J.ソウヤー

1200年の冷凍睡眠の末に植民星にたどりついた者たちを待っていたのは、新技術で先行していた人類でした。開拓者から生きた化石になりはてた植民者っちのとった行動とは?

 

「囚われのメイザー」オースン・スコット・カード

『エンダーのゲーム』の前日譚です。グラッフ大佐がバトルスクールを設立した背景には、メイザー提督とのこんなエピソードがあったのですね。

 

「文化保存管理者」ジェレミア・トルバート

惑星連邦を脱退して異星人の異文化を管理していた男が逮捕されてしまいます。彼は絶体絶命の境地から脱出することができるのでしょうか。

 

「ジョーダンへの手紙」アレン・スティー

別れた女性を忘れられない男は、手紙という原始的な手段で彼女への思いを書き綴ります。やがて男の純愛を信じた女性は予想外の手段で星間旅費を稼くのです。物語を愛する種族が宇宙のどこかにいるという想像は楽しいですね。

 

エスカーラ」トレント・ハーゲンレイダー

銀河連邦の征服部隊に決死の抵抗を試みる扇動者たちは、何を信じているのでしょう。部隊に同行した異星人類学者は、なぜこの星をエスカーラ(火と傷)と名付けたのでしょう。

 

「星間集団意識体の婚活」ジェイムズ・アラン・ガードナー

千兆の生命体を抱える星間連盟が、結婚相手を探そうとしてルームメイトのデジタル支援球に相談します。しかし紹介された星系はどれも基準を満たしていません。オチは月並みですが、星系が人格を持ち、居住民がその影響を受けるというアイデアが楽しい作品です。

 

「ゴルバッシュ、あるいはワイン-血-戦争-挽歌」キャサリン・M.ヴァレンテ

ワインを星間移動させることには、様々な危険がつきまとうのです。巨大な武装シャトーに敵視され、禁制品とされた家族経営の小規模ワイナリーのヴィンテージワインは、地球のロワール渓谷に発した一族の歴史を含んでいるのです。

 

2022/8