りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2025-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2025/8 Best 3

1.了巷説百物語(京極夏彦) 1999年に始まった人気シリーズがついに完結。『巷説百物語』の名を冠する作品が7冊もある大シリーズの完結編にふさわしい、1149ページもの大作です。意外なことに語り手は、初登場の稲荷藤兵衛。全ての嘘を見破って旧…

人生劇場(桜木紫乃)

3冊目の自伝的小説ですが前2作とは大きく赴きが異なります。直木賞受賞作の『ホテルローヤル』が実家のラブホテルを中心に据えた作品であり、『ラブレス』が母方の物語であったのに対し、本書は父方をベースとする物語です。 何もかもが赤く染まった鉄鋼の…

オリーヴ・キタリッジ、ふたたび(エリザベス・ストラウト)

ピューリッツアー賞を受賞した『オリーヴ・キタリッジの生活』の続編が書かれるとは思いもしませんでした。メイン州の小さな港町を舞台に繰り広げられる人間模様の中心人物・オリーヴは、前作の終了時点で74歳。夫を亡くし、息子とも折の合わない老女に、…

倒産続きの彼女(新川帆立)

大ヒットしたデビュー作『元彼の遺言状』の続編的な作品で、お嬢弁護士・剣持麗子も連続出場。しかし本書では脇役的な存在であり、主役は弁護士事務所の後輩である美馬玉子。麗子とは正反対のキャラで、経済的に恵まれない家庭出身で見た目も冴えない。地道…

逢坂の六人(周防柳)

平安前期、平凡な文官と舞女の子として生まれた紀貫之は、日本初の勅撰和歌集「古今和歌集」の撰者に任命されます。「やまとうたは、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける」で始まる仮名序で和歌の本質を解き明かした貫之は、、和歌の分類、和歌のあ…

時間移民(劉慈欣 リウ・ツーシン)

『三体』で中国ハードSFに新地平を切り開いた著者の第2短編集です。先に出た『円』と同様、『三体』の原点となるモチーフやテーマを含む作品のみならず、オリジナリティあふれる発想があちこちに詰め込まれている、宝石箱のような1冊です。 「時間移民」…

ザ・ロイヤルファミリー(早見和真)

決して皇室一家の物語ではありません。本書は「ロイヤル」の名を冠した馬たちの勝利を求める馬主一家の物語です。日本の競馬小説というと、生産者目線の『優駿(宮本輝)』や調教師目線の『銀色のステイヤー(河崎秋子)』や『リボンステークス(須藤靖貴)…

聖獣王のマント(紅玉いづき)

デビュー作『ミミズクと夜の王』から一貫して「ファンタジー世界で冒険する少女」を書き続けて来た著者は、新作の主人公の少女に新しい役割を与えました。それは「ひとつの国の王」となること。 東京の夜の繁華街を彷徨っていた家出少女チルは、唐突に冒険の…

スメラミシング(小川哲)

「宗教」をテーマとする短篇集ですが、対象は陰謀や恋愛にまで及んでいます。陰謀は宗教を論じる際の道具立てのひとつであり、恋愛は過剰な期待を抱かせるとの点で宗教と似ているとのこと。描かれているのは明らかに突出した状態ではあるのですが、誰もが宗…

私の最後の羊が死んだ(河崎秋子)

2024年に『ともぐい』で直木賞を受賞した著者が、小説家として独り立ちするまでの日々を描いた自伝的エッセーです。著者はなんと15年もの間「羊飼い」だったとのこと。北海道東部・別海町の酪農家の娘として育った著者が「羊病」に罹ったのは、北海道…

了巷説百物語3野宿火 百物語(京極夏彦)

長い物語の最後は、まさかの戦闘シーンでした。そもそも又市をはじめとする妖術使いの一味は人死にを嫌い、人の記憶を操ることで事件の解決を図っていたわけですが、超暴力的組織「七福神」を相手にした一行は、綺麗ごとではすまなくなっています。もっとも…

了巷説百物語2葛乃葉 手洗鬼(京極夏彦)

水野忠邦が準備している大改革を妨害する者どもを炙り出すという、洞観屋・稲荷藤兵衛への依頼は、御行の又市らの名前をあげることで終わっています。そもそも幕政改革などという大仕事に対して、小悪党の一味などが手を出せるはずもないのです。それ以上の…

了巷説百物語1於菊蟲 柳婆 累(京極夏彦)

1999年に始まった人気シリーズがついに完結。『巷説百物語』の名を冠する作品が7冊もある大シリーズの完結編にふさわしい、1149ページもの大作です。大きく3つのパートに分けて読書ノートを記すことにします。第1部は「於菊蟲」、「柳婆」、「累…

絡繰り心中(永井紗耶子)

2023年に『木挽町のあだ討ち』で直木賞を受賞した著者のデビュー作です。主人公は家を飛び出して歌舞伎森田座で笛方見習いをしている19歳の頃の遠山金四郎。バディ役は浮世絵師の歌川国貞で、助言者として高齢の狂歌師・大田南畝も登場します。太田南…

わたしの体に呪いをかけるな(リンディ・ウェスト)

2016年に出版された本書のタイトルは「甲高く耳障りな声」という意味の「shrill」。、トランプに敗れたヒラリーに対する蔑称として用いられた言葉です。しかし女性たちが甲高い声を上げて抗議するのは、どんな時なのでしょうか。それを耳障りに感じてし…

先祖探偵(新川帆立)

『元彼の遺言状』で鮮烈なデビューを果たした弁護士作家の第2長編は、風変わりな探偵業を営むヒロインの物語でした。谷中銀座の路地裏で、依頼者の先祖を捜し出す探偵事務所を開いている邑楽風子は、幼い頃に母親から捨てられた経験を持っています。そんな…

ぶらり世界裁判放浪記(原口侑子)

東京の法律事務所を辞めて旅に出た弁護士が、行った先々の国で法廷を傍聴するという、かなり変わった旅行記です。1年ほど滞在したバングラデシュの外に出たのは、「赤線地帯を廃止しよう」という活動だけでなく、「赤線地帯に住む人なちと一緒に生きていこ…

元彼の遺言状(新川帆立)

28歳にして年収2千万円を得ている敏腕弁護士の剣持麗子は、金の亡者なのです。元カレの森川栄治が亡くなったことを知らされても動揺することなどありません。しかも優良企業の創業一家の御曹司であった元カレから遺贈された軽井沢の別荘などより、「僕の…

板上に咲く(原田マハ)

唯一無二の版画家となった棟方志功の半生を、妻チヤの視点から綴った作品です。まず序章がいいですね。1987年にゴッホの「ひまわり」が東郷青児美術館で公開されることになって、老未亡人となっていたチヤの元に新聞記者が取材にやってくる場面。「ワぁ…

この夏の星を見る(辻村深月)

未知の新型コロナウイルスに対する怖れから、全国一斉休校や緊急事態宣言が出された2020年春。そんな時期に進級・進学した学生たちは、普通とは異なる体験を余儀なくされました。学校行事の中止や延期、部活動の自粛、リモート授業、マスク着用などの予…

最後のローマ皇帝(野中恵子)

タイトルの「最後のローマ皇帝」とは、5世紀に蛮族の将軍オドアケルに廃された西ローマ帝国の幼帝ロムルスでも、15世紀にオスマン帝国に滅ぼされた東ローマ帝国のコンスタンティノス11世のことでもありません。6世紀にコンスタンティノープルから旧都…

ブリス・モンタージュ(リン・マー)

幼少期に渡米した若い中国系作家のデビュー作は、新型コロナ禍を予感させる長編『断絶』でした。本書には「不可思議な語り口と冷徹な観察眼が冴える」8編の短編が収録されており、どれもキレがいい。この方は短編向きなのかもしれません。タイトルの『ブリ…