2025-06-01から1ヶ月間の記事一覧
1.モナ・リザのニスを剥ぐ(ポール・サン・ブリス) 「モナ・リザ」を修復して作品イメージが変わってしまったら、フランス国家、いや全世界にとって重大な問題であり、現実世界ではほとんど不可能と言われています。本書は敢えてその難問に取り組み、政治…
アンティーク着物のネットショップを営む39歳の美佐は、母親離れのできない夫に愛想をつかして別居中。ある日実家の蔵で見つけたのは、亡くなった祖母・咲子の遺した銘仙と、美しい少女が写った古い写真でした。一緒に見つかった祖母のノートを読み進めた…
直木賞受賞作『星落ちて、なお』や『若冲』、『龍華記』など、絵師や仏師を主人公に据えた長編もある貯っ者が、歴史の闇と美による救済をテーマとして描いた短編集です。5編とも史実をベースにしていますが、切れ味鋭い作品に仕上がっています。 「さくり姫…
神代における天地開闢から持統天皇の時代までの出来事を編年体で記述した『日本書紀』は、日本最古の歴史書とされますが、いつ誰によって始められた事業なのでしょう。推古天皇までの「国史」は6世紀後半から7世紀前半にかけて聖徳太子によって編集され、…
著者の故郷である南イタリアの小村カルフィッツィは、5世紀前にトルコの支配を逃れて海を渡ったアルバニア人移住者が開いた共同体のひとつです。経済的に恵まれていない故郷から、ドイツや北イタリアに出稼ぎに出たり移住する者も多いことから、「旅立ちと…
日本で低用量ピルが承認されたのは、欧米から40年近く遅れた1999年のこと。1972年に登場した「中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合」こと「中ピ連」代表の榎美沙子さんのことを覚えている人がどのくらいいるでしょうか。♀印のついた…
プロのクイズプレイヤーの思考とはどんなものなのでしょう。「クイズとは何か」という問題に徹底的に向き合った本書は、ミステリとしても秀逸な作品です。 賞金1000万円を賭けたクイズ大会の決勝戦。その日絶好調であった三嶋は、勝利を確信した瞬間に対…
不可解なタイトルに加えて、人間の身体が水流で運ばれていく冒頭の文章からは、ミステリの雰囲気が漂います。しかしそこから展開されていくのは、東京を離れて北海道の小村で暮らし始めた30代半ばの女性の物語。長年付き合った男と別れた撫養桂子は、東京…
「ステイヤー」とは、スタミナ豊富で長距離レースを得意とする馬のこと。本書は、日高の小規模な生産牧場で生まれた芦毛の牡馬「シルバーファーン」をめぐる競馬会の人間模様を描いた作品です。競馬小説というとディック・フランシスによる「競馬ミステリシ…
ルーブルの至宝「モナ・リザ」は500年の間に、作品を保護して透明度を高めるために何度もニスを塗られてきました。しかしニス自体も長い年月の間に劣化して変色しており、現在の私たちが知るモナ・リザは、ダ・ヴィンチが描いたものとは大きく異なってい…
横浜育ちの著者が、戦前に「横濱一の大富豪」と呼ばれた原三溪について描いた作品です。富岡製糸場をはじめとする製糸工場を各地に有して横浜興信銀行の頭取にもなった実業家で、美術品蒐集や茶人としても知られ、横浜の中心部に広い日本庭園「三溪園」を遺…
タイトルの「死の森」とはチェルノブイリ周辺の森林地帯のこと。1986年の原発事故から数十年に渡って人々の立ち入りが禁じられていた森は、野生動物の楽園のような原生林へと変貌したそうです。もちろんそこは放射能も含む均衡状態にあり、遺伝子の損傷…
第2次世界大戦中の1943年、三国同盟を結んでいたイタリア共和国が降伏したことで、在日イタリア人は選択を強いられました。ドイツ傀儡として作られたサロー共和国への忠誠を問われたのです。当時7歳の少女であった著者ダーチャの両親はノーと答えたこ…
人類が作り上げたマ・フと呼ばれる人工知性体を主人公とする連作集です。冒頭の「七十四秒の旋律と孤独」は、ワープの際に人間が静止してしまう空白の74秒の間、襲撃者から宇宙船を守る任務に就いているマ・フが、静寂の宇宙空間で死闘を繰り広げる物語。…
4姉妹というと『若草物語』が思い浮かびますが、こちらは中年4姉妹による家族再発見物語。物語は、62歳になる森戸家の父親が突然再婚を宣言する場面から始まります。ずっと不仲であった4姉妹は、それを機に結束して父親に対峙することになるのですが、…
どうやら「文豪ブーム」なる現象が起こっているようです。文豪に異能力を持たせたアニメの『文豪ストレイドッグス』や、転生した文豪を闘わせるゲームの「文豪とアルケミスト」のみならず、「まんがで読破シリーズ」やドラマ化、もちろん夏目、森、樋口、芥…
「安倍晴明シリーズ」の第3弾ですが、10年前に書かれた『安倍晴明あやかし鬼譚』は紫式部時代の物語であり、前巻『安倍晴明くれない秘抄』と本書とで、晴明の孫らしき少女・小鹿を主人公とする2巻のシリーズとして捉えたほうが良さそうです。 貧民街で育…
宮沢賢治の生前には未発表であった『銀河鉄道の夜』は、賢治記念館に保存されている第4次草稿が最終版とされています。第3次草稿にあった自己犠牲を尊ぶような教訓めいた言葉や、少年を導くような大人の存在は消し去られ、ジョヴァンニは等身大の少年とし…