
『三体』で中国ハードSFに新地平を切り開いた著者の第2短編集です。先に出た『円』と同様、『三体』の原点となるモチーフやテーマを含む作品のみならず、オリジナリティあふれる発想があちこちに詰め込まれている、宝石箱のような1冊です。
「時間移民」
『三体』にも登場した冷凍睡眠技術を用いた集団「移民」ですが、対象はなんと8千万人。環境負荷と人口圧力からの逃亡なのですが、ほとんど国家レベルの規模。設定されたゴールは120年後だったのですが、人類が生き延びている間は、移住するに足るより良い未来は訪れないようです。
「思索者」
見習い脳外科医だった青年は、山頂の天文台で恒星の瞬きを研究する天文学者の女性と出会います。それぞれの道を歩んだ2人の男女は、人類の時間では計り知れない宇宙の壮大な神秘に気付くのでした。「フィールズ・オブ・ゴールド」と並んで、最も抒情的な作品です。
「夢の海」
外宇宙から突然やってきた「低温アーティスト」を名のる訪問者は、地球の海水を全て凍らせる規模の氷彫刻を創り始めます。後片づけが大変になるのですが、これは人類存続の危機ですね。
「歓喜の歌」
外宇宙から突然やってきた「音楽家」は、原子レベルの厚みしか有さない「鏡」でした。彼はベートーベンの「歓喜の歌」に満足するのですが・・。「夢の海」と『円』に収録されている「詩雲」を含めた3篇は「大芸術シリーズ」と呼ばれているようです。
「ミクロの果て」
『三体』で重要な役割を果たす天才物理学者・が登場。超大統一理論が完成する時、宇宙が裏返るとは・・。著者のデビュー作とのこと。次の3作でも丁儀が重要な役割を果たしています。
「宇宙収縮」
宇宙の膨張が終わって収縮を始める時、いったい何が起こるのでしょうか。
「朝に道を聞かば」
超大統一理論を求めて人類が行おうとしている実験は、大宇宙の真空崩壊を招きかねない危険なものでした。強制的に実験を中止させた宇宙の「リスク排除官」は、死と引き換えに宇宙の真理を教えると言うのですが・・。
「共存できない二つの祝日」
人類が宇宙に飛び出した日が「誕生の日」となった一方で、仮想世界に閉じこもろうとした日は「流産の日」と名付けられることになりました。
「全帯域電波妨害」
ロシアの内戦に呼応してNATO軍がロシアに侵攻。電子線で圧倒されたロシア軍が採った最後の方策は、味方も含めて全ての電波を妨害することでした。そして太陽に接近していた巨大な宇宙船が、巨大な太陽風を起こすために用いられることになるのです。
「天使時代」
アフリカの最貧国出身の遺伝子ソフトウェア工学創始者が行った危険な実験を中止させるために、アメリカ軍空母艦隊が攻撃を仕掛けます。しかし天才科学者がヒトゲノムを改変して大量に作り上げた軍隊は、恐るべき戦闘力を有していたのです。
「運命」
時空リープを行った宇宙船は、地球衝突軌道に乗った小惑星を破壊します。それこそが太古の地球で恐竜を滅亡させた隕石であったことを知らずに・・。再び時空リープを行って出発時点に戻ってきた宇宙船の乗組員は、人類が主人公とならなかった地球を見出すのでした。
警察を嘲笑うかのように、捜査側の全ての行動を見越している男は、どんな秘密を有しているのでしょうか。その男が発見した技術は破壊されるべきっものなのでしょうか。
「フィールズ・オブ・ゴールド」
外宇宙を目指して漂流する宇宙船の唯一の乗員である少女を救うために、全地球が総力を費やして救援宇宙船を開発。しかし19年後に到達した救援船は、残酷な真実を知るのでした。「思索者」と並んで、最も好きな作品です。
2025/8