りぼんの読書ノート

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無情の月 上(メアリ・ロビネット・コワル)

1952年。アメリ東海岸に巨大隕石が落下したことで地球環境は激変。存亡の危機を認識した人類が本格的な宇宙進出を目指すという歴史改変SFシリーズの第3部です。テクノロジーは未熟ですが、1961年に始まったアポロ計画が人類を月に送り込んだことを思うと、「ありえた物語」とも思えます。むしろ現実の宇宙開発史ともっとも異なる点は、女性パイロットたちの活躍でしょうか。第1部の『宇宙(そら)へ』で一介の計算者から「レディ・アストノロノート」として月を目指したエルマは、第2部の『火星へ』で火星有人探査へと向かいます。そして第3部の本書では、女性パイロットチームの一員であったニコールの視点から、当時の地球と月で起こっていたことが描かれます。

 

全人類が宇宙に進出できるわけではないことは自明です。「地球ファースト主義者」という原理主義的グループが誕生して、人類の宇宙進出計画に対する妨害活動が過激化していました。月面基地アーテミスへの補給に向かう宇宙船が爆破され、要人の暗殺まで発生。しかも月面基地でも破壊工作が行われている模様。カンザス州知事の妻となっていたニコールは、宇宙飛行士プラスアルファの技能を買われて、アーテミスへの滞在と調査を任されるのですが、次々に想定外の危機に襲われてしまいます。

 

いきなり月に向かう宇宙船でトラブルが発生します。アーテミスではCO2吸収や除湿など生存に必要な装置が次々に故障。原因不明の停電も頻発し、大量の爆発物が盗難されていたことも判明。さらに当時ワクチンが開発されたばかりのポリオが蔓延し始めます。そしてついに地球との連絡が途絶えてしまうのでした。女性パイロット仲間のヘレンやマートルらの助力を得たニコールは、アーテミスを救うことができるのでしょうか。危機的状況の中、ニコールの「プラスアルファ」の技能が明らかにされたところで上巻は終わります。下巻でのニコールの反撃に期待しましょう。

 

2023/9