りぼんの読書ノート

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ディアスポラ(グレッグ・イーガン)

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難解なハードSFの代表のように言われる作品ですが、そんなことはありません。サイバー空間における生命の誕生、宇宙を襲う未曾有の危機、壮大な宇宙進出計画、多次元宇宙の存在、そして超知的生命体との遭遇という、現代SFではお馴染みの概念が壮大なスケールで展開されていきます。むしろ、無限の多次元宇宙と、無限の探索行為に乗り出す孤児の精神に、等価値性を認める最終章が印象的であり、極めて詩的な作品であると思うのです。

30世紀。人類の大半が人格をソフトウェア化して仮想現実世界で暮らす時代。肉体を有して地球上で暮らす者は少数派にすぎません。しかし、予想外の中性子星の衝突がもたらしたガンマ線バーストが全てを変えてしまいます。肉体世界の消滅。外的宇宙に眼を向けた究極の宇宙探索プロジェクト「ディアスポラ」の起動。その結果遭遇した超知性体(トランスミューター)が遺したメッセージは、近い将来の「コアバースト=銀河滅亡」。そして必然的結論として、超知性体が脱出先として示した多次元宇宙への展開・・。

多次元宇宙への旅人となったのが、「孤児=人工知性体」のヤチマと、DNAと両親を有しながら人格をソフト化したパウロです。やがて、先達のトランスミューターが遠い過去に旅を終えた地点に到着したヤチマは、パウロを残してひとりで旅を続けることを決意。

ここにきて、「孤児=人工知性体」の誕生過程を延々と描いた第1部の意味が明らかになるのでしょう。ヤチマに無限の旅の継続を促す「自意識=意識の不変量」とは何なのか。それは、どこからどうやってもたらされたものなのか。それを知るには、この宇宙の全てのルールを統括する究極的なルールを知る必要があるということなのでしょうか。

2014/9