りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

エコープラクシア(ピーター・ワッツ)

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2013年に出版された『ブラインドサイト』の続編であることを気づかずに読んでしまいました。「前作を読んでいることを強くお勧め」などと解説に書いてあっても、普通気づきませんよね。

まずは前作品のおさらいをしておきましょう。突如登場して消滅した全地球を囲む6万5千個の流星は、高度に発達した技術力を有する知性体からのファーストコンタクトでした。正体不明の宇宙人の探索に乗り出した宇宙船「テーセウス」は、人間の脳の構造的欠陥を利用されて壊滅。唯一脱出を果たした「統合能力保有者」が、人類に向けてメッセージを語り出す・・という内容だったようです。

本書で描かれるのは14年後の物語。かすかに届いたメッセージを手掛かりに、再び外宇宙に乗り出したメンバーは、もはや人類とは言えない者ばかりでした。「テーセウス」の生存者の父親でやはり統合能力を有する軍人のムーア大佐。超知性体として復活させられた吸血鬼ヴァレリー。ネットワーク化された脳を持つ集合体「両球派修道会」の一員であるウイルス神学者のリアンナ。遺伝子改変を受けた宇宙船操縦士のセングプタ。そしてベースラインと呼ばれゴキブリ扱いされる一般人のブリュックス。彼らはそれぞれに原罪的なトラウマを抱えているのです。

やがて太陽近傍の発電ステーションであるイカロス衛星網にたどり着いた一行は、そこでウィルス状の知性体ポルティアと遭遇するのですが・・。

本書において人類が知覚し得る宇宙とは「デジタル物理学」に基づく、巨大なコンピュータのような世界として描かれます。物理法則を破壊して超自然的な奇跡を起こす神とはウイルスのような存在であり、一方で異なる法則に支配される世界からの侵入者もまたウイルスなのです。「神と信仰と自由意志」をテーマとする本書は、わかりにくい点もあるのですが、首尾一貫した構造を持つハードSFの傑作と言えるでしょう。順番は逆になりますが『ブラインドサイト』も読んでみようと思います。

2017/12