物語は、カールセン船長が指揮する宇宙船が、明らかに人類のものではない巨大難破船に遭遇した場面から始まります。船内で眠っているのか死んでいるのか定かではない、妖艶な美女の姿をした生命体を地球に持ち帰ったところ、それは彼女に惹かれる者の心を読んで、生命力を吸い取ってしまう恐るべき「宇宙ヴァンパイアー」だったのです。
しかし本書は、次々に人体を乗っ取って行く「宇宙ヴァンパイアー狩り」の物語にはなりません。生命力をやりとりする能力は、普通の人間にも、ありとあらゆる生命体にも共通のものだということが、次第に明らかになって来るのです。しかもそれはセックスのときに、しかもSM傾向を伴うセックスの際に最大値を示すというのです。
キワモノ感が増していくと思うと、その一方では「宇宙ヴァンパイアー」が人類の起源ではないかとの洞察があったり、英国首相の身体を乗っ取った宇宙生命体と対決するという本格SF路線に戻ったり、一筋縄ではいかない作品なのです。そのあたりの自由自在さには、19世紀の大文学のような風格すら感じられなくもありません。
村上さんと柴田さんは巻末対談で、「思想だけで作品は残るものではなく、物語の面白さが必要」という趣旨の発言をされていますが、その通りだと思います。
2017/6