りぼんの読書ノート

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きいろいゾウ(西加奈子)

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お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う若夫婦の本名は、武辜歩と妻利愛子。背中に大きな鳥のタトゥーを持つ売れない小説家のムコと、周囲の生き物の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れたツマの生活は、つつましいものながら愛にあふれていました。しかし2人には秘密もあったのです。

ツマの秘密は序盤で明らかにされます。小学生のときに心臓の病気で1年休学していたというのです。その時に病床で読んだ絵本が「きいろいゾウ」。月の粉で黄色に輝く空飛ぶ象が、病気の女の子を世界中に連れていく物語。各章の冒頭に登場する「きいろいゾウ」も意外な着地をするのですが、それはむしろ絵本らしい展開なのかもしれません。

ムコの秘密は、背中の大きな鳥のタトゥーに関するものでした。かつて愛したものの、精神を病んで去って行った人妻への思いに決着をつけるべく、ムコは東京へと向かいます。一方でひとり残されたツマは、女性の幽霊を見るようになっていきます。そこにもまた、大切な人への愛の物語が潜んでいるのです。

アレチ(隣人のおじいさん)、セイカ(アレチさんの妻)、カンユ(野良犬)、メガデス(レトリーバー)、コソク(チャボ)ら、カタカナで綴られる隣人たちは、「夫婦の結界の内側」にいる存在のようです。しかし、その内部だけで生きられるものではないし、外側からの闖入者を防ぐわけにもいきません。本書は、いったん破れた結界を修復する物語ではなく、結界の外で普通の夫婦として生きていく物語なのでしょう。

だから、ツマが生き物の声を聴けなくなることは当然の結末なのですが、宮崎あおい向井理が共演した映画では違う解釈のようです。未見ですが、気になります。

2017/6