りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017/6 本を読むひと(アリス・フェルネ)

水木しげる氏の一周忌にあたる2016年11月に出版された京極夏彦さんの『虚実妖怪百物語』は、実在の人物も数多く登場して大騒動を繰り広げる、紙上の大法要ともいうべき作品でした。タイミングを逃しましたが、生涯戦争反対を訴え続けた水木しげる氏のご冥福をお祈りいたします。
1.本を読むひと(アリス・フェルネ)
パリ郊外で不法滞在しているジプシーの大家族と、図書館員エステールの奇跡的な交流を描いた作品です。セイフティネットの外にあって、男たちは盗みを働き、女たちは愛されながらも虐げられている小世界で、学校にも行っていない子供たちに本を読み聞かせることが、何をどう変えていくのか。単純なハッピーエンドにはなりませんが、一筋の希望を感じられる作品です。

2.長崎ぶらぶら節(なかにし礼)
丸山に実在した名妓・愛八が、長崎研究で身代を傾けた市井の学者・古賀十二朗とともに、長崎の古い歌を訪ね歩く本書は、素朴な感動を呼び起こしてくれます。土地の古老や老妓らを訪ね歩いて、民謡、子守歌、隠れキリシタンの聖歌などを発掘した愛八の素朴さと一途さとキップの良さも、本書によって記録に残ったのです。

3.きいろいゾウ(西加奈子)
各章の冒頭に登場する「きいろいゾウ」の童話や、お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う若夫婦の関係は、本書を牧歌的に思わせますが、仕掛けがたくさん詰まった作品でした。後に直木賞を受賞する著者の、初期の傑作だと思います。



2017/6/29