りぼんの読書ノート

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虚実妖怪百物語 急(京極夏彦)

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魔人・加藤保憲と、彼が召喚した太古の魔物の日本滅亡計画とは、この国の人々が昔から持っていた「ゆとりや余裕や馬鹿さ」を消滅させてしまうことでした。この力があったため、この国は過去に戦争や大災害があっても滅亡することはなく、復旧を遂げてきたというのです。

そしてついに政府を牛耳った魔人と魔物は、迫害された妖怪関係者たちの最後の砦となっていた、富士の裾野の別荘地に総攻撃を仕掛けるに至ります。攻撃軍の自衛隊や特殊部隊に対するのは、一反木綿や塗り壁などお馴染みの妖怪だけでなく、ガメラなどの怪獣や、鈴木光司が呼び出した巨大貞子ら。夢枕獏陰陽師の一団を引き連れて参戦。豆腐小僧も登場しますが、さすがに役には立ちません。全ては「そう見える」だけなんですけどね。

しかし「妖怪大戦争」に決着をつけたのは、これまでも登場してきた「三馬鹿キャラ」のレオ☆若葉、榎木津平太郎、似田貝大介だったのです。日本中の「お馬鹿」を吸い込んで巨大化していた魔物を破るのは、けた外れの「馬鹿の力」という、脱力感満載ぶり。ところが、一気に破裂して広がった「お馬鹿エキス」は、日本の「やる気」を失わせてしまうのです。果たして、虚構に浸食されてしまった日本の行く末は?

本書が出版されたのは2016年の10月~11月です。2015年11月30日に逝去された水木しげる大先生の一周忌なんですね。実在の妖怪関係者に「とても良く似たキャラ」を総出演させた本書は、「紙上の大法要」なのでしょう。そして、最後まで戦争に反対し続けた水木しげる大先生の信念が、本書を貫いているテーマだったのです。全てが「秘蔵の絵巻物」に「封神」されたラストは、綺麗に決まりました。

2017/6