現代中国の小村、戦後のスペイン・バスク地方、19世紀の英国、平安時代の日本と、異なる時代の異なる国々を描いた作品が上位に並びました。どれも社会問題に鋭く切り込みつつ、ストーリー展開も楽しめる作品です。小説世界ではベルリンにも、スウェーデンにも、トルコにも、アルジェリアにも、モンゴルにも行けるのですが、現実世界はいつになったら自由な往来を楽しめるようになるのでしょう。
1.丁庄の夢 (閻連科)
政府の売血政策によってエイズが蔓延した中国の小村には死の匂いが満ちています。廃校となった学校で共同生活を始めた病人たちは、ひとときの安らぎを得るのですが、そこも決して安住の地ではありませんでした。かつて売血王として財を成した男と、彼に反対する人々が反抗しあうものの、どちらの側も金と面子に支配されているのです。既に亡くなった少年を語り手とする物語には、「人類が災難に直面したとき異なる音が存在しないことが最大の災難なのだ」という、著者の使命感には心を打たれます。
2.アコーディオン弾きの息子(ベルナルド・アチャガ)
スペインのバスク地方で生まれ育った2人の男性の友情を軸にして、バスク地方の波乱に満ちた近現代史が描かれます。まだ消え去っていない内戦の傷跡に触れ、過激なバスク解放闘争に身を投じた男たちに、安らぎの日は来るのでしょうか。二重三重の入れ子構造になっている、一人の男の回想録と、もう一人の男の加筆と、さらに実際に起こった出来事の相違は、バスク問題の複雑さを反映しているかのようです。
19世紀英国文学を代表するヒロインの「ジェーン・エア」は、かなり地味なヒロインですが、当時としては自立した女性像を描いたものとして頑迷な男尊主義者から批判を浴びたとのこと。その論争に触発された著者が、『ジェーン・エア』をモチーフとしてさらに強烈な女性像を創り上げました。オリジナルのロチェスターに相当する人物や使用人たちの描かれ方も興味深いのですが、何より波乱万丈のヴィクトリアン・ゴチック調のストーリーを楽しめる作品です。
【次点】
・業平(高樹のぶ子)
【その他今月読んだ本】
・定家明月記私抄(堀田善衞)
・定家明月記私抄 続編(堀田善衞)
・べらぼうくん(万城目学)
・今昔百鬼拾遺 鬼(京極夏彦)
・今昔百鬼拾遺 天狗(京極夏彦)
・今昔百鬼拾遺 河童(京極夏彦)
・チンギス紀 5(北方謙三)
・チンギス紀 6(北方謙三)
・後藤さんのこと(円城塔)
・絡新婦の理(京極夏彦)
・アルジェリア、シャラ通りの小さな書店(カウテル・アディミ)
・約束された移動(小川洋子)
・新しい人生(オルハン・パムク)
・ミレニアム6 死すべき女(ダヴィド・ラーゲルクランツ)
・うさぎ通り丸亀不動産(堀川アサコ)
・カブールの園(宮内悠介)
・風かおる(葉室麟)
・ベルリンは晴れているか(深緑野分)
・逃亡小説集(吉田修一)
2020/10/30