りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

限界集落株式会社(黒野伸一)

イメージ 1

起業のためにIT企業を辞職した多岐川優が、人生の休息で訪れた故郷は、限界集落になっていました。過疎・高齢化が進み、郵便局も小学校もバス便も消え、役場からは麓の村に引っ越すように強く勧められていたのです。

村の人たちと交流するうちに限界集落を再生する役割を担うことになった優でしたが、周囲にいるのは老人たちや、頑固な零細農家や、田舎に逃げてきた若者という、現代日本で「負け組」とされる者ばかり。しかも本来なら味方になって欲しい役場や農協も抵抗勢力なのです。果たして、逆転満塁ホームランの地域活性化は実現するのでしょうか。

もちろん理論家の優だけで、限界集落の再生ができるわけではありません。現実の農村にマネー資本主義を持ち込んでも、効率や収益を最優先させる大規模農業という答えしか出てこないでしょう。それは実際の住民にとっての幸福を増大させるとは限らないのです。

本書では、理想主義者の優と衝突する存在として、現実主義者の農業娘である美穂というヒロインが登場します。この2人に上手にバランスを取らせる存在が、美穂の父親で、都会から逃げ帰ってきた正登という中年男性。減農薬農業によるブランド造り、高地野菜の都会への直販、漫画家崩れの青年によるキャラクター作成などで、再生事業は波に乗ったように思えたのですが・・。

限界集落」という社会的な負け組を、人生の負け組たちが再生するという痛快な作品でした。もちろん現実はそう甘いものではないし、実際の地域おこし活動はどこも似たり寄ったりでほとんど共倒れ状態になっているのですが、それぞれの人生こそは効率や収益だけの問題ではないのですから。

2017/6