りぼんの読書ノート

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神の水(パオロ・バチガルピ)

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ねじまき少女化石燃料の枯渇した世界を描いた著者による、水資源が枯渇したアメリカ南西部の物語。本書で描かれているのは、短編集第六ポンプに収録されている「タマリスクハンター」と同じ世界のようです。

もともとアメリカ南西部は、先住民族が雨のことを「神の水」と呼んでいたというほど、水が少ないのです。それを、一方ではダムで集めた水をパイプやコンクリート水路で数百キロの彼方まで送り、もう一方では地下の帯水層の水を急速に消費しつくすことによって、強引に都市を作ってしまったというのが現実のようです。

この時代、「水は金のある方に流れる」との原則の下で、水利権を巡る州間の対立はほとんど戦争寸前。テキサスは既に廃棄されてテキサス人は難民化。カリフォルニアとラスベガスがコロラド川水利権を巡って暗闘を繰り広げる中で、アリゾナは負け組に入ろうとしています。そんなアリゾナの州都フェニックスが本書の舞台。

フェニックスの混乱を調査に来たラスベガスの水工作員アンヘルは、とてつもなく最上位の水利権を記した文書の存在に気づきます。調査の過程で、惨殺された水道局員について取材をしていたジャーナリストのナンシーと遭遇。裏切りと謀略が渦巻く世界で、一時的な共闘関係を結んだ2人は、偶然に文書を持ち出したテキサス難民マリアを追いかけるのですが・・。

アメリカ南西部諸州の武力を用いた抗争はともかくとして、ロスへの水道配管がシェラネヴァダ東麓のオーエンズヴァレーを渇水させているような事態は、既に現実世界でも起きています。世界に目を向けると、ナイルを巡るエジプトとエチオピア、ガンジスを巡るインドとバングラデシュメコンを巡る中国と東南アジア各国の間などで、緊張が高まっています。本書で描かれる世界は、遠い未来のことではないのかもしれません。

2016/7