りぼんの読書ノート

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長崎ぶらぶら節(なかにし礼)

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丸山に実在した名妓・愛八が、長崎研究で身代を傾けた市井の学者・古賀十二朗に声をかけられ、ともに長崎の古い歌を訪ね歩く本書は、素朴な感動を呼び起こしてくれます。

義侠心が強く、身銭を切って苦労している若者や子供を援助してきた愛八が、古賀と出会ったのは50歳を過ぎてからのこと。古老や老妓らを訪ね歩いて、民謡、子守歌、隠れキリシタンの聖歌などを記録してきた2人は、「ぶらぶら節」に巡り合います。やがて愛八が歌う「ぶらぶら節」は、日本の民謡を発掘していた西倏八十によってビクターでレコード化されるに至ります。

物語は、愛八が密かに抱く古賀への恋情の昇華と、死病に罹った不遇な少女への愛八の献身的な援助を軸に進んでいきます。少女の全快と引き換えに倒れた愛八の質素な住まいには、古賀と発掘した歌の本が残されていただけだったものの、愛八を偲ぶ者たちによって盛大な葬儀が営まれたとのことです。

はじめは異教徒を拒んでいたキリシタンの古老が、その地のみに伝わってきた聖歌を記録することの意義に気付く場面が感動的でした。もちろん「ぶらぶら節」の採取が間に合った場面も。写真も活字も音源も残せなかった時代に失われた膨大な事象のことを思うと、気が遠くなるほどです。現在は逆に、うんざりするほど情報過多の時代になっていますが、玉石混交の中からも良いものは残ると信じたいですね。

2017/6