りぼんの読書ノート

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川あかり(葉室麟)

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主人公は、川止めで途方に暮れている若侍の伊東七十郎。藩で一番の臆病者と言われる七十郎の使命は、専横を極める藩の重鎮の暗殺なのですが、彼は単なる捨て駒のようです。川明けを待つ間、安宿で相部屋になったのは一癖も二癖もある連中ばかり。実は彼らは皆、同じ目的を持つ一味だったのです。

同宿した人々の悲しい過去と、彼らが期するものは、次第に明らかになってきます。それは同時に、七十郎の気持ちの整理を促すことになっていくのですが、それは死ぬ覚悟なのか、生き抜く覚悟なのか。やがて雨は止み、川が明ける日が訪れます。

正統派の時代小説ですが、少々ベタな展開でご都合主義にも思えるのは、意識してのものなのでしょう。リアルな江戸の世で、七十郎をはじめとする登場人物たちの運命が開けることはなかったのでしょうから。七十郎の心が長年憧れていた上司の娘・美祢から、一味の一員である鳥追いのお若に移っていることを告げるラストも、いいですね。

「川あかり」とは、日が暮れた後でも白い輝きを残している川のことだそうです。暗い時代でも、一筋の光を宿し続ける人の心を象徴しているのでしょう。輝き続けていられる時間は限られているのですが・・。

2017/6