りぼんの読書ノート

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この世の春 上(宮部みゆき)

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下野北見藩の若き第六代藩主・北見重興が重病により隠居。しかしその実態は、多重人格症という心の病であり、重興は藩主の別荘である五香苑に監禁されることになりました。しかも藩政改革を推し進めて名君とよばれていた先代藩主は、息子の重興に殺害されていたというのです。

もちろんこれらのことは、ごく一握りの上層部のみが知る秘中の秘。しかし、隠居していた元作事方組頭・各務数右衛門の出戻り娘・多紀に、重興の世話をせよとの密命が下ります。多紀の亡くなった母親は、16年前に滅ぼされた御霊繰というイタコの技を用いる一族の出身であったため、重興の治療に使えるのではないかと思われたのですが、多紀はその事実すら知らされてはいませんでした。

先代藩主の殺害時に隠居した元家老の石野織部蘭学を学んだ医師の白田登、多紀の従弟で部屋住みの田島半十郎らが、、女中のお鈴やおごう、奉公人の寒吉などとともに重興の世話を始めた多紀は、重興の多重人格の底に潜んでいた闇を解き明かしていくことになります。

重興の心の闇は幼児虐待に発していたのか。それと前後して、藩内で少年たちが相次いで行方不明になっていた事件はどう関わってくるのか。御霊繰の一族が根絶やしにされたのは何故なのか。三島屋変調百物語などの怪異譚も、模倣犯楽園などのサイコキラーものも描いた著者の作品だけに、この後の展開がどうなっていくのか予断を許しませんが、つかみはOK。

導入部の紹介だけで長くなってしまったので、この後は下巻の紹介で書きましょう。「前代未聞の大仕掛け、魂も凍る復讐劇」という帯の言葉に嘘はありません。

2018/10