2008年3月に90歳で亡くなった、SFの大家クラークさんの遺作です。著者には、生前叶えることができなかった3つの望みがあったそうですが、本書でその全てを実現させているというのが、話題となりました。
その望みとは「地球外生命体が存在する証拠の発見」、「非石化クリーンエネルギーの実用化」、「帰化したスリランカの紛争の終結」だそうです。ひょっとしたら4つめの望みであったかもしれない「生命の永続」も含めて、それらが全部、本書に登場しています。その意味では、共著とはいえ、クラークさんの集大成に相応しい作品と言えるでしょう。
その頃はるか彼方の宇宙では、銀河系を管理する超知性体・グランド・ギャラクティクスが、次々と核爆弾を用いている人類の存在を発見して、憂慮を深めていました。宇宙の将来に害をもたらしかねない要素の排除を決めた超知性体は、配下の異星人に指示を出して、侵略艦隊を出発させます。もはや人類に残された時間は20年ほどしかありません。
でも、その間に人類は自らの手で変わっていくのです。はじめは、ランジットが「フェルマーの最終定理」のエレガントな証明に成功したことでした。次いで「軌道エレベーター」がスリランカに建設されることが決まり、ランジットの恩師が、建設責任者に任命されます。やがて3つの超大国が協力して、地球の平和を守るための活動が始まります。地球を観察していた異星人は、どうするのでしょうか・・。
ランジットと妻のマイラの間に生まれた娘ナターシャが、驚くべき役割を果たすのですが、彼女の役割は、決して「スペース・オデッセイ」のデビッド・ボーマンではありません。むしろ、その役割はランジットに与えられることになります。
「スペース・オデッセイ」の最終巻である『3001年終末への旅』でも、まだ刊行中の「タイム・オデッセイ」の『太陽の盾』でも、宇宙の超知性体は人類の排除に向かいます。晩年のクラークさんは、現在までの人類のあり方に否定的だったように思えるのですが、未来への希望は失ってはいません。
本書では、科学と宗教との和解(それはなんと、ヒンズー的な「輪廻」をも含みます!)や、人類が遠い将来に果たすことになる役割にまで触れ、クラークさんの希望が全て込められた小説に仕上がりました。ファン必読の一冊です。
2010/7