りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

三体(劉慈欣 リウ・ツーシン)

昨今の中国SF界の興隆は目覚ましいものですが、中でも本書は「現代SFの歴史を大きく塗り替えた1冊」としてオバマ元大統領が愛読するなど、世界的に大ヒットした作品です。本書をカール・セーガンアーサー・C・クラークの代表作になぞらえる向きもあるようですが、そのような比較に意味はありませんね。グレッグ・イーガンらと並ぶ「現代ハードSFの第一人者」のひとりと言っておけば十分ではないでしょうか。

 

題名の「三体」とは、天体力学の「三体問題」に由来する言葉です。3つの天体が互いに引力を及ぼしながらどのように運動するかという問題のことであり、一般的には解けないことが証明されています。つまりその動きは全くランダムなのですが、そんな3つの恒星を三重太陽として持つ惑星に文明が生まれたとしたら・・というのが基本設定。実は太陽系から4.3光年と最も近い恒星系であるケンタウルス座α星。

 

物語の始まりは文革期、混乱の中で処刑された理論物理学者の娘である、天体物理学者の葉文潔が「紅岸」と呼ばれる巨大レーダー基地に派遣されました。人類の悪行に絶望していた若き女性科学者は、そこで何を見出し、どのような行動を取ったのでしょう。それは人類を滅亡へと導く行為だったのですが・・。

 

40年後、「三体」と呼ばれる奇妙なVRゲームが知識人の間に流行し始めます。太陽が安定する恒紀に起こった文明が、さまざまな形で訪れる乱紀に滅亡を繰り返すゲームには、どのような秘密があるのでしょう。実はそれは宇宙に実在する「三体世界」の発展を、地球の歴史を借りてシミュレートしたものでした。それは、理論物理学の基礎が揺らぎ始めたことや、葉文潔の娘である楊冬をはじめとする超一流の科学者たちが自殺し続けていることとは、どのような関係があるのでしょうか。諸国政府が手を組んだ「科学境界」に招かれた、ナノマテリアル開発者の汪淼と無頼警察官の史強は、調査を開始するのですが・・。

 

やはり驚くべき作品でした。ラスト数章には若干違和感を覚えましたが奇抜な発想にリアリティを与える表現やデテイル、一気に読ませるエンタテインメント性、さらに政治的な問題意識を高い次元で結合した本書は、中国でしか生まれ得なかった作品なのかもしれません。久しぶりにワクワクするSF作品を読むことができました。

 

2022/12