りぼんの読書ノート

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三体2暗黒森林 上(劉慈欣 リウ・ツーシン)

実は『三体』の第2部以降にはそれほど期待していませんでした。第1部でもスリリングだったのは三体文明の正体が明らかになる前、ランダムな太陽の運行による恒紀と乱紀の繰り返しの中で興亡を繰り返す文明の謎を解き明かす過程だったのですから。しかしアシモフの『銀河帝国の興亡』を彷彿とさせる「宇宙社会学」の公理を前面に押し出した本書もまた、第1部とは異なるスリルを提供してくれたのです。その公理こそが第2部の副題となっている「黒暗森林」です。

 

第1部のラストで、地球は三体文明による侵略の危機にあることが明らかにされました。光速の1%で進む三体艦隊の地球到達まで残された時間は420年。しかし三体文明が光速で送り込んだ11次元の陽子AIである智子(ソフォン)によって、人類の動きはこごごとくモニタリングされ、基礎物理学の発展は阻害されています。しかし三体文明には弱点もありました。それは完璧なコミュニケーション能力を有するために思考を隠すことができず、陰謀や偽装という概念を理解できないこと。

 

それを知った人類は、最後の希望として「面壁計画」を実行。選ばれた4人の「面壁者(wall facer)」に莫大な権力と資源を与えて、終末決戦の時まで真相を明かさない作戦を準備させるのです。一方で三体文明の降臨を待ち望む地球三体協会はマンツーマンで「破壁者(wall breaker)」を立て、彼らの戦略の解読を開始。かくして両チームが対峙するのですが、無数の蚊群編隊による自爆攻撃案も、恒星型水爆による水星落下案も、必勝信念を植え付ける精神印章案も、隠された真の意図まで破壁者に暴かれてしまいます。人類に残された最後の希望は、中国人天文学者の羅輯(ルオ・ジー)が宇宙に投げかけた「呪文」なのですが・・。

 

羅輯の謎めいた行動を別にすれば、上巻から下巻途中までのかなりの部分が、宇宙戦争における軍略や哲学に費やされているわけですが、決して難解ではありません。サスペンスの推理ゲームを読む感覚で楽しめます。事実上、人類の最期の希望となった羅輯の「呪文」の真相と効力は、下巻で明かされることになります。

 

2023/1