りぼんの読書ノート

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レス(アンドリュー・ショーン・グリア)

主人公は50歳の誕生日を目前にした作家のアーサー・レス。サンフランシスコ在住の彼は、ビートニクを思わせる架空の芸術家集団ロシアリバー派の生き残りです。一世代上の天才詩人ロバートと同棲した影響で小説を書き始めたものの、知名度はイマイチで最新作は出版社から拒絶されてしまいます。実は彼はゲイなのですが、仲間からゲイであることを恥じていると痛罵され、最近までつきあっていた若い恋人フレディから結婚式への招待状を受け取ってすっかり落ち込んでしまいます。

 

結婚式への出席を断る口実を作るため、レスは世界中の文学イベントを回る旅を思いつきます。ニューヨーク、メキシコ、トリノ、ベルリン、パリ、モロッコ、そして京都。行く先々で滑稽な失敗を続けて疎外感を味わいながらも、様々な出会いもありました。それでも彼は自分の文学性に自信を持てず、元恋人のフレディのことばかりを考えてしまいます。

 

レスは自分のことを「歳を取った最初の同性愛者である」と考えています。もちろん大げさな表現ですが、上の世代の人たちはエイズで早逝し、もっと上の世代の人たちはゲイを公表できなかったのです。レスの回想は、ゲイの人々が偏見と戦い、権利を獲得していく歴史でもあるのですが、その功績も彼の一世代上の人たちに帰属しているのでしょう。

 

レスの名前のスペルは「LESS」であり、「Less Mexican」、「Less Itarian」などと名付けられた各章は、彼が世界中どこに行っても「ひとつ足りない」としか思えない人物であることを示しているようです。それでも最後に訪れた京都で自分の過去と正直に向き合うことができました。再生のためにはユーモア感覚を失ってはいけないのでしょう。

 

2022/12