りぼんの読書ノート

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ぼくらが女性を愛する理由(ミルチャ・カルタレスク)

ノーベル文学賞候補との評判も高いルーマニア作家が2004年に著した本書は、21章の短編、掌編、エッセイ、断章からなっています。本格的な小説ではなく、決して著者の代表作ではありませんが、最も人気のある作品だとのこと。

 

テーマはずばり女性賛歌。幼児の頃の朧げな記憶から、思春期の憧憬、学生時代の体験や後悔、50代に差し掛かった中年男性の感想に至るまで、著者が女性という存在に関して観念的・現実的に感じたさまざまなことが鏤められています。さまざまな世代の「ぼく」は、ブカレストの下町、トランシルバニアの大学、初めて海外に出たサンフランシスコの街角、アムステルダムの飾り窓、魔法の町トリノなど、あちこちに出没。描かれる対象も、おませな幼女、ストイックな文学少女、実在感ある生身の女性、美の化身、セックスシンボルなど多様多彩。秘密警察にスカウトされて惨めな思いをする女性が鮮やかに変身する物語や、ジプシー娘に恋焦がれたスター歌手の転落劇などのフィクションも含まれています。

 

著者は書名と同じタイトルをつけた最終章で、「ぼくらが女性を愛する理由は、彼女たちが女性だから」と無難な纏め方をしています。しかし著者の本音は、その数章前に記されていたように思えるのです。「世界中で一番素晴らしい女性は、真実あなたを愛し、真実あなたが愛するひとだ。ほかのことは何一つ問題にならない」という言葉に。

 

2022/12