りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

流浪地球(劉慈欣 リウ・ツーシン)

「三体シリーズ3部作」の著者による短編集ですが、収録されている6作品はどれも中編レベルの内容・分量を備えており、読み応えのある1冊に仕上がっています。本書の姉妹編として5編の中編が収録されている『老神介護』も必読ですね。

 

「流浪地球」

400年後に起こると予測された太陽爆発を回避するために、人類は地球を別の星系に移動させることを決定。しかし最も近いアルファ・ケンタウリまでも4.3光年あるのに、地球を移動させることなど可能なのでしょうか。全人類を地下都市に潜らせ、数万基の超巨大エンジンによって月を切り離し、自転を止め、太陽系から脱出させて新たな太陽の惑星になるまでの2500年もの旅を、人類は耐えることができるのでしょうか。「宇宙船地球号」というテーマは新しいものではありませんが、細部の技術や、民衆の反応や、感傷的はエンディングが特徴的です。

 

「ミクロ紀元」

この作品も太陽爆発による地球文明滅亡の回避がテーマです。探査船の生き残りとしてただひとり、2万5千年後の地球に戻ってきた宇宙飛行士は、既に太陽爆発が起こってしまったことを悟ります。しかし人類は驚くべき方法で生き延びていたのです。

 

「呑食者」

呑食者と呼ばれる恐竜型の侵略者の目的は、地球を巨大リングに挟み込んで全資源を吸い尽くすことでした。最初にして最後の宇宙戦争に挑む人類に勝算はあるのでしょうか。しかし最も驚くべき点は、呑食者文明と人類文明の相似だったのです。いったい彼らはどこからやってきたのでしょう。別の短編集『円』に収録されている「詩雲」の前日譚であり、そこでは呑食者の使節・大牙と人類が、新たな全能者を迎えることになります。

 

「呪い5.0」

無害なコンピュータ・ウィルスであった「呪い1.0」は、どのようにしてバージョンアップされ、やがては全人類に対する脅威にまで成長していったのでしょう。著者の作品とは思えないドタバタコメディですが、ホームレスに成り下がった著者が実名で登場しています。

 

「中国太陽」

スパイダーマン」と呼ばれる高層ビルの窓ふきたちがスカウトされた新しい仕事とは、中国上空の静止衛星となった巨大反射鏡、通称「中国太陽」の清掃員でした。やがて使命を終えた中国太陽が深宇宙に廃棄されるとき、寒村出身で学歴もキャリアも持たない宇宙清掃員たちは驚くべき行動を取るのです、いい作品でした。

 

「山」

チョモランマで仲間を死なせたことを悔いて山から離れ、海上で生活していた男が出会ったのは、世界で最も高い山だったのです。それはエイリアンの巨大宇宙船の引力で持ち上げられた海面だったのですが、彼が知ることになったエイリアン世界の発展史がユニークです。地球サイズの惑星の中心部に生まれた半径3千kmの泡世界に誕生した生命は、どのようにして物理理論や宇宙論を発展させたのでしょう。奇想天外な物語ですが、ハードSFのエッセンスが詰まっています。

 

2023/5