りぼんの読書ノート

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三体3 死神永生 下(劉慈欣 リウ・ツーシン)

程心は執刃者の任務を全うし得ませんでした。抑止は破れ、本性を現した三体星人の前に人類は滅亡の危機に追い込まれてしまいます。しかしその時、三体世界の母星が超新星と化して滅亡。三体艦隊は地球を離れていきます。重力波送信を発信したのはいったい誰だったのでしょう。いったん危機は去ったものの、人類は単独で宇宙の黒暗森林と対峙することになります。対策のヒントを与えてくれたのは、長らく消息不明であり、今は三体艦隊に保護されている雲天明でした。

 

人類は太陽爆発に備えて、4つの巨大惑星を掩体として利用する巨大な宇宙都市の建設に取り掛かります。しかし黒暗森林からの攻撃は人類の予想を遥かに超えていました。彼らが太陽系に送り込んだのは光粒ではなく、太陽系世界を丸ごと二次元化してしまう「紙切れ」だったのです。高次元空間の低次元化というと、円城塔の「イザナミシステム」を思わせますが、こんな超物理原則攻撃に対して、人類は打つ手があるのでしょうか。

 

実は黒暗森林からの攻撃を回避する手段はあったのです。それは光速を太陽重力からの脱出速度以下に遅くして、太陽系全体を閉ざされた世界にしてしまうこと。雲天明が程心に語った寓話の中にそのヒントは隠されていたのですが、秒速30万kmの光速を秒速17kmに変化させるという物理法則を歪める行為など可能だったのでしょうか。2度も危機を呼び込んでしまったことに打ちのめされた程心は、ずっと彼女と行動を共にしてきた若い女性AAとともに、人類が有する唯一の小型光速船で太陽系を脱出。彼女はどこにたどり着くのでしょう。

 

宇宙の果てとはどこで、宇宙の終わりとは何なのか。「三体3部作」が本国で「地球往時3部作」と呼ばれているのは、第3巻のラストに理由があったのですね。中国の古来伝承である「壺中の天」のような特異空間の存在も見事に嵌まりました。想像力を極限まで引き延ばしてくれる結末は、まさにSFを読む醍醐味です。このシリーズの熱狂的読者であったSF作家の宝樹が「三体ロス」を癒すために書き上げ、劉慈欣も承認した『三体X』という作品も邦訳されているとのこと。これも必読。主人公はAAと雲天明だそうです。

 

2023/1