りぼんの読書ノート

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プランク・ダイヴ(グレッグ・イーガン)

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「ハードSF」を代表する著者の、5冊目の短編集です。「長編作家」の印象が強いのですが、短編でも「著者らしさ」をうかがうことはできます。ただし本書は、以前読んだ短編集『TAP 』とは、かなり雰囲気が異なっているようです。

「クリスタルの夜」
ドイツの反ユダヤ暴動事件を思わせるタイトルを持つ、現代版『フェッセンデンの宇宙)』では、人工知性体の「人権」が問われます。進化スピードを高めるためにストレスを与えられ続け、大虐殺までされてしまう人工知体が、「造物主」である人間に果たした復讐とは・・? ラストは『百億の昼と千億の夜』を思わせます。

「エキストラ」
この作品で問われるのは「クローンの人権」です。自分のクローンに脳移植を行って不老不死を得ようとする大富豪が窮地に陥ります。脳移植手術は成功するのですが・・。

「暗黒整数」
「裏宇宙」こと「ダークマター宇宙」の存在を確認してしまった数学者たちが、人知れず「冷戦」を戦うハメに。出会うと互いに消滅してしまう「究極の武器」を保有しあう「物質世界と反物質世界」は、共存できるのでしょうか。

「グローリー」
野蛮な種族が暮らす惑星の古代遺跡にあるという「究極の数学理論」の探索に赴いた、「融合世界」の調査員は、遺跡の発掘に成功するのですが・・。究極の知識の取得は、宇宙のビッグクランチを早めてしまうのでしょうか。また、知性と融和と理性を重んじる種族は、「蛮族」に敗れる運命にあるのでしょうか。

「ワンの絨毯」
ディアスポラ』の第4部を独立させた短編です。「人間原理」を否定するには人類とは別の「観察者」が必要なのですが、異種族とのファーストコンタクトは、意外な形でもたらされたのです。「千次元空間の16空間切片」・・想像もできません。

プランク・ダイヴ」
超高度宇宙文明の人々が、自身と宇宙船を光粒子化してブラックホールに入り込み、そこの特性を用いて時空の構造を解き明かそうとする物語。しかしブラックホールからは生命はおろか、理論だって持ち帰ることはできないのです。道化的な「吟遊詩人」は必要だったでしょうか。

「伝播」
到達地点でナノマシンを組み立てて別の惑星に発射する仕組みを自動化すると、いずれは「果て」に到達できる? そのアイデア自体に新味はありませんが、主人公たちの言葉がいかにもイーガンらしい。「来るべきすべての世代の人々が、自分では完成させることのできないなにかを、はじめられますように」。そして「決して終わりを見ることがありませんように」。『ディアスポラ』の主人公ヤチマの精神を思い起こさせる言葉です。


2015/3