りぼんの読書ノート

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Self-Reference ENGINE(円城塔)

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日本人としては2人目の「フィリップ・K・ディック賞」の次点にあたる特別賞を受賞した作品です。初期のコンピューターを指す「Difference Engine」から派生させたタイトルの意味は、「自己参照する巨大知性体」。

この「自己参照」が曲者なのです。他者から観測されることで存在を確認される世界で、他者から観測されえないものは存在しているといえるのか。そもそも巨大知性体たちが自然と一体化しようとして引き起こした「event」の結果生まれた、時間も次元もねじれて絡み合う多宇宙空間とは何なのか。巨大知性体より30次元も上位にある「超超超・・知性体」の存在など認識しえるものなのか。

こんな世界を背景にして、幼馴染の男女の不可解な恋愛関係、世界の心理を表す単純な定理の発見、全く質量を持たない円周、祖母の家の床下から発見された20体のフロイト、鯰文書の謎などが展開されるのが第1部である「Nearside」。ここまでの世界観は、意味不明ながらも整然としています。

ところが、「超超超・・知性体」とのコンタクトからはじまる第2部の「Farside」からは、もう一段の転移が行われ、巨大知性体たちの存在が一気に道化じみてくるのです。激しい演算戦から一歩退いて、瞑想、神秘、喜劇へと進んでいく巨大知性体たちの「人間味?」は楽しいのですが、やがて崩壊から消失、そして存在すら定かでなくなるという構成は、メタまで絡んで難度が一段あがる感じですね。

20章からなる本書はまた、各章の独立性が高いため、短編集としても読むことができそうです。個人的に一番の好みは「Japanese」。14ページの古代文書から日本語を解明しようとする試みにおいて、数字の4を表す文字は四画の「木」か「口」か。まさか五画の「四」とは思いませんよね。そしてその14ページの文書とは「この章そのもの」であるというメタぶりを、英語版ではどのように扱ったのか、気になります。

2014/7